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7 私を呼ぶ声
どのぐらい経過したのだろうか。気付けば私は泣きながら眠ってしまったようで目が覚めたら自分のベッドの中にいた。ベッドサイドにはランタンが灯され、窓の外を見れば、星々が輝き、月が見えた。
今夜は満月だったが…オレンジ色の妙にまがまがしい色をしていて、私の心を何となく不安にさせた。
そこで気が付いた。
「そうだ!あの人はっ?!」
慌てて部屋を飛び出すと、彼は窓の傍の床の上に座り剣を抱えたままこっくりこっくり船を漕いでいた。月明かりに照らされた彼の姿は…悔しい程に美しかった。
「ね…ねえ…」
私は彼の肩に手を置き、揺すぶった。すると次の瞬間―。
バッ!
彼は瞬時に目を覚まし、まるで人間とは思えぬほどの動きで素早く後ろにとび下がると同時に私の喉元に剣の切っ先をあてがった。
「あ…」
あまりの恐怖に身動きが出来ない。すると彼はハッとなって急いで剣を床の上に置くと、頭を床に擦り付けるように土下座をしてきた。
「す・す・すみませんっ!『ブギーマン』かと思ってつい…!」
「な、な…何するのよっ!私を殺す気っ?!」
喉元を押さえながら抗議した。
「い、いえ…!そんな事は決してありませんっ!た、ただ今夜は赤い月夜なのでいつも以上に神経が過敏になってしまって…!」
「え…?赤い月…?」
私は窓から夜空を眺めた。確かに今夜は月が赤く見えるけど…。
「ねえ…月が赤いとどうなるの?」
すると彼は途端に顔つきが変わる。どうも『ブギーマン』の話になると人格が変わるようだ。
「赤い月の夜…<ブラッディ・ムーン>の夜は『ブギーマン』が活発に動くと言われています。実際他の国ではこの月夜に一晩で3人もの犠牲者が出たことがあります」
「そ、それじゃ今夜も出るかもしれないと…?」
声が恐怖で震えてしまう。
「ええ…特にローザさんは注意してください。『ブギーマンは』一家族全員をを狙ってくる場合があります」
「え…?何故…?」
「『ブギーマン』は元は人間の身体を乗っ取っています。どこか人間的な考えをもっているようで…家族が犠牲になって1人だけ残すのは忍びないと…って!な…何故僕をそんな目で睨むんですかぁっ?!」
「それって…つまり私が次の犠牲者になるかもしれないって事でしょうっ?!」
興奮のあまり、右足をダンッと彼の前についた。
「ひいっ!」
彼は後ずさりながら私を怯えたように見る。
全く…『ブギーマン』の事になるとまるで人格が変わったようになるのに、それ以外は何というか頼りない青年だ。
「す、す、すみませんっ!で、でも安心して下さいっ!必ず狙われると言う訳ではありませんし…何よりもこの僕がついていますから!」
「本当に…?何だか貴方…頼りないのよねえ…?」
「う…す、すみません…」
その時…。
突然周囲の空気が冷たくなり、何処からともなく風が吹いてきた。
テーブルの上に置いておいたランタンの明かりが風によってフッと消え…部屋の中が真っ暗になった。
「キャアアアッ!」
私は怖くなって思わず彼にしがみつく。
「落ち着いて下さい、ローザッ!」
彼は左手で私をしっかり抱きしめると、スラリと右手で剣を構えた。すると何処からともなく声が聞こえて来た。
「ローザ…」
「え…?そ、その声は…」
「ローザッ!駄目ですっ!耳を貸してはっ!『ブギーマン』は人の心を幻惑しますっ!」
彼は叫ぶが、私にはその声に聞き覚えがあり…無視すること等出来なかった。
「ま…まさか…そ、その声は…ジャック…?」
「ローザッ!駄目ですっ!奴が…奴が実体化するっ!」
彼が叫んだ―。
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