片目のわたしとガインダー

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 わたしのクラスに変な男子がいる。 24時間365日(少なくとも学校にいる間は)ずっと、お面をつけている。そのお面って言うのも、どこで見つけてきたのか、顔の全部を隠せちゃうくらいの大きな葉っぱに、紐を通したものだ。目の部分に空いた穴からは、黒い目がキョロっと覗いている。  あいつの名前はトシアキ。前は地味で、目立たない方だったはずだ。わたしも小学校の5年間で、関わったことはあまりない。  だけど今はそのど迫力な見た目がウケたのか、みんなからは「ガインダー」なんて呼ばれて人気を集めている。  ちょっと昔に、葉っぱのマスクをつけたヒーローの番組があって、そこから取ったあだ名らしい。画像で検索してみると、本当に今のトシアキそっくりで、ちょっと笑った。  そんなトシアキの机の周りには、今日もクラスのみんなが集まり、放課後に遊びに行く約束を立てていた。  それを左目で見ながら、私は一人で教室を出る。  眼帯をつけた右目を、そっと隠しながら。  「ガインダー、サッカー行こうぜ!」 次の日の休み時間、トシアキはいつもみたいに、活発な男子たちに誘われて、葉っぱのお面をなびかせて、かけてゆく。  わたしはいつも教室の隅で、独りで絵を描いている。クラスの子とはあまり関わらない。この眼帯のことを問い詰められたくないからだ。  でも、おせっかいな人はいるもので…。    「あっれー?アイちゃんまた一人で描いてるー!」  そのけたたましい声の主は、クラスメイトのかなでちゃん。その大きな瞳は、クラス内のどんな些細なことも見逃さない。そしてその一つ一つに対して、たいへんオーバーなリアクションをとるのだ。  「ねえ、なんでいつも絵描いてるの?誰かと遊ばないの?ていうか何を描いてるの?ねぇねぇ…」  その小さな体を爆心地とする大きな声に、廊下を通る人もこちらを見てくる。  クラスに残っているみんなも、全員がわたしたちに注目している。中にはクスクス笑う声も聞こえてくる。  私は耐えきれなくなって、画用紙をしまった。  「あんたには関係ないでしょ。ほっといてよ」      そうしてわたしは教室から出た。後ろで誰かが「こわっ」と呟いて笑うのが聞こえた。かなでちゃんもまだわんわん唸っている。  誰もいない、トイレの鏡の前に立つ。 もう一度周りを確認してから、右目を覆う眼帯を、ゆっくりと外した。  真っ白な眼帯の下から現れたのは、まるで血みたいに真っ赤な瞳。わたしは右と左で目の色が違う。  「オッド・アイ」っていうらしい。お医者さんは、これは病気ではなく、個性の一つだと言っていた。でも、わたしにはそんなふうには思えない。なにかの呪いにでもかかって、右目を血で真っ赤に染められちゃったようにしか見えないんだ。  ふぅ、と、色んな気持ちを吐き出してから眼帯をかけ直す。本当は、自分でも見たくない。そしてそれ以上に、誰にも見られたくない。誰にも知られたくない、私の秘密だ。  
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