0人が本棚に入れています
本棚に追加
「大丈夫かい?」
声の主はあの葉っぱくんだった。
「君の目、なんだか不思議だね」
わたしはムッとした。そしてそれ以上に、真っ暗で、空っぽの気持ちが、胸の中で渦を巻いていた。
「放っといてよ、関係ないでしょ」
「いや、キレイだなって思ったんだ。…ぼくの顔なんかと比べれば」
わたしは顔を上げた。トシアキの…顔?
私がじっと注目する前で、トシアキは、お面を外した。
そこに現れた顔は、表面がボコボコしていて、ところどころにまだら模様が見える。つついたら割れてしまいそうな、水風船みたいに腫れている。
「少し前に、顔中を火傷したんだ。もう一生こんな顔なんだってさ」
私は声も出せずに、トシアキの顔を見つめた。左右で色の違う、不揃いな目で。
「やけどする前、僕は大人しくて、地味なやつだった。誰も、僕のことなんて見てもいない。やけどして、こんな顔になった。きっと皆にからかわれるだろう。ターゲットにされるだろう。それが怖くて、このお面を作ったんだ」
昔から自然が好きで、特に木の香りをかぐと、心が落ち着く。きっと、大丈夫だって気になれる。だから葉っぱでお面を作った。
そんなことを言いながら、トシアキは話を続ける。
「そうしたら、皆が面白がって、友達になってくれた。本当の自分を隠して、見せたくないものを覆い隠して…。それでも、友達ができたのは幸せだった」
そのうち、固まっていたわたしの口もほぐれてきた。
「あんたは…どうして私のことを気にして、こんなところまで来てくれたの?…なんでわたしに、その顔を見せてくれたの?」
「皆にとって、ぼくはガインダー。葉っぱをかぶった変なやつだ。でも、君は僕のことを"トシアキ"って呼んでくれただろう?君だけは、本当の僕を見てくれていた。そんな君の、力になりたいんだ」
トシアキは、葉っぱのお面を破り捨てた。
君はもう眼帯をなくした。ぼくもお面を捨てる。
一緒にこのまま教室に帰ろう。二人なら怖くないだろう?
トシアキはそう言って、真っ白な手を差し出した。
「あんた、ホントにワケわかんないね」
ヘンに照れくさくて、「ありがとう」なんて素直に言えなかった。それでも、その手はきちんと握り返した。
教室へ向かう途中、廊下の向こうから誰かが走ってくる。
かなでちゃんだ。
「アイちゃーん!!みてみてっ!!」
いつもどおりの元気な声で、私達に近づき、2つに結んだ髪の付け根を指差す。右と左でまるっきり色の違う髪飾りが結われていた。
黒と赤。わたしの目の色と同じだった。
「あたし、いっつも間違えちゃうんだ!でも、おかげでアイちゃんとお揃いだね!!アイちゃんの目、カッコイイよっ!!」
残酷さなんてない、太陽みたいな笑顔がそこにあった。トシアキは私を見てウインクした。
うっかり屋で、空気の読めないかなでちゃん。ボコボコした顔のトシアキ。そして、魔女みたいな目をした、わたし。
不揃いで、だからこそ美しい。
これが、かけがえのない、わたしたちなんだ。
-Fin.
最初のコメントを投稿しよう!