もしも、なんて

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もしも、なんて

「おーい、おーい!(あい)、聞いてる?」 ぱっと目を開けたとき、一人の男性が私の目の前にいた。 そこは外で、人々が行き交う街中?のような場所だった。 …この人、誰だっけ?知ってるような、知らないような。 「あなた、誰?」 そう言うと男性は「は?」ととぼけたような感じだった。 「俺のこと忘れたの?あ、あれだろ今日エイプリールフールだからだろ! 俺は、達平(たっぺい)真壁達平(まかべたっぺい)!」 達平…達平! 「あぁ達平!達平だ!」 「え、お前マジで忘れてたの?」 「ごめんごめん…」 誤りながらも、自分のスマホを見る。 4月1日、午後13時26分。 「たくっ…バカだなお前は、相変わらず」 呆れたように達平が言った。 …忘れてただけじゃない! 「ほら、行くぞ!」 そう言って達平は私の手を取り走り出した。 …達平、冷たい。 「桜だ!」 走り出して、桜たちが咲き並ぶ公園についた。 走るのをやめ、私たちは歩き始めた。手は繋いだまま。 「4月1日に見る桜は、最高だぜ〜」 そう言って達平は、手を話して草原に転がった。 「はぁ〜っ!気持ちいい〜」 腕をグーッと伸ばす達平は、暖かい風に吹かれ気持ちよさそうだ。 周りを見渡してみると、子供連れの家族、お年寄りの夫婦、色んな人がいた。 周りから見たら私たちって、どんなふうに見えるんだろう。 私は達平の横に座り、達平の手をとる。 「なに?」 目を閉じながら、達平が少し笑いながら私に聞く。 「達平、冷たいね」 「そうか?藍は寒い?」 「寒い」 達平は体を起こし、私をギュッと抱きしめた。 「温かい?…てか、お前のほうが温かくね?」 「達平が冷たいんだよ」 私がそう言うと、達平はもっと強く私を抱きしめた。 「これで温かい?」 「…うん」 ぬくもりを、感じた。 ピピピピピピピピ。耳障りな目覚ましの音。 バッと目を開ける。涙が溜まっていた。 「達平!…は、もういないんだよね」 さっきのは夢だったという悲しさと、もういないという悲しさと。 達平がなくなったのは、夢と同じエイプリールフール。 その日はデートの約束をしていたが、私は用事ができて断った。 もしいけていたら、こんな風にデートしてたのかな。 最後に送られた、達平のメール。 「俺、藍がいないと死ぬーーーー!」 フッと笑ってスマホを切った。 エイプリールフールなのに、エイプリールフールなのに…。 カーテンを開けて、部屋に光をいれる。 涙は乾き、いつものように一人暮らし生活を送る。 けれど、たしかに私は感じたのだ。 君の体温、を。
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