第一杯 神秘のドンブリ ~卵丼~

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 ブルグント王国は、平和な国だった。周囲を大国に囲まれながらも属国となることはなく、対等な関係を築いている。  国土は周囲の国々の半分ほどしかなく、大した国力もないにも関わらずそんな状況を維持できているのには秘密がある。    その秘密とは、この国の第一王女・アンネリーゼにあった。  そんなアンネリーゼ王女……アンネは早くも後悔していた。  呼び鈴を鳴らし、使用人を呼んだのは自分だ。起きて空腹だから至急食事の用意をせよと命じたのも自分だ。だからこうなることはわかっていた。それなのにアンネは、目の前に広がる光景に深いため息を禁じ得なかった。 「これは何?」  その言葉は、傍に控える明るい髪と空色の瞳をした、王女と似た年頃の男に向けて言った言葉だ。  問われた男……王女付きの従者であるディーターが即座に答えた。 「はい! スープです」 「そんなことは見ればわかるわ。この具も何も入っていない薄ーい色のスープは何かと聞いているの」  するとディーターは、胸を張って答えた。 「はい! 長く眠っていらしたアンネ様は、さぞかし空腹であられるかと思います。ですが長く空腹でいた直後に、いきなり大量の食事をとられると、アンネ様の体が悲鳴を上げてしまいます。ゆえに、まずは体を温める、優しい味のスープをお出しした次第です」  こう答えることは、わかりきっていた。だってこのディーターは、毎回同じように言うからだ。一言一句違わず復唱してやろうかと思う時もある。 「……まずは、ということは、この後もっと美味しいものが用意されているの?」 「もちろんです」 「え、本当……?」  アンネはわずかに目を見開いて、得意げな従者の顔を見つめた。 「このスープをお飲みになった後は、野菜のスープをお持ちします。まだお召し上がりになるなら、豆のスープを。もっとお召し上がりになられるなら次はもう少し具だくさんのシチューを……」 「わかった、もういいわ」  忠実なる従者の忠誠心あふれる選択は、主であるアンネをさらなる絶望にたたき落とすには十分すぎたのだった。
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