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◆◆◆◆◆ 自分を殺してほしい。 そんなめちゃくちゃな要望を、矢島は受け入れるのでもなく馬鹿にするのでもなく、ただ青空を見上げた。 彼の茶色い瞳に、雲一つない青空が写る。 思えばーーー。 陽の光の下で彼を見るのは初めてだ。 あの監獄実験の際、いつも彼と会うのは夜中だったから。 砂子の意識が薄れる一瞬のすきをついて、彼女もろとも自分を殺そうとする瞬間、いつも彼は海藤を押さえつけ、暴れる自分に舌を噛まれながらも薬を飲ませて強制的にバーストさせた。 あれから、彼が助けてくれた命を呪い、彼を憎んだ日もあった。 しかし彼は三谷ハートクリニックが市街地に移転する直前に、ここに会いに来てくれた。 『出て来いよ!海藤!!いつか絶対、ここから生きて出て来い!』 マジックミラーの防音ガラス。 それでも自分は矢島の気配を感じた。 彼の声が響いてきた。 『お前の人生は、そこから始まるんだからな!!』 今思えば―――。 その声は自分が聞いたのではない。 自分の中に眠り続けていた砂子みちるが聞いたのだ。 そしてその声で彼女はおそらくーーー 目を覚ました。 それから海藤は、砂子みちるになり暗闇のなかを闇雲に走る自分と、振り返る矢島の夢を、頻繁に見るようになった。 ーーー死にたい。 誰かをまた殺すくらいなら。 ーーー楽になりたい。 このまま悪夢にうなされ続けるくらいなら。 毎日そう思うようになった。 精神病院を転々とし、外から遮断された世界で、どの病院のどの病室に入っても、抜け道を探し、医者や看護師を突き飛ばして、どれだけダミーが並んでいようが、ホンモノの窓を探し当てては飛び降りた。 自分が走るその先に、矢島がいてはいけない。 自分が走るその先に、迎えているのは死でなければいけない。 飛び降りた回数は数知れず。 手術レベルの怪我をしたのは3回。 そのうち1回が致命傷となり、歩けなくなった。 歩けなくなった海藤を、ほとんどの医師と看護師は同情するふりをしながら、内心ほっとしていたに違いない。 その後からだった。 すっかり大人しくなったものの、まだ一人部屋に隔離されていた海藤の病室に、 あの男がこっそり訪ねてくるようになったのは―――。
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