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残業がなければ、仕事が終わるのが午前0時40分。
社宅に帰るのが午前1時前。
大抵、部屋の前で女が待っている。
ーーー誰だっけ。
毎回そう思いながら鍵を開ける。
誰とも交際しているわけではない。
会社の飲み会で先輩が吹っ掛けてきた女グループにいた女だったり、昔のニュースを観て物珍しさと冷やかし半分に訪ねて来た女だったり、深夜のコンビニの喫煙所で会話をした女だったり、出会いは様々で、その一つ一つをいちいち覚えていない。
言葉少なに服を脱がせ、乳房を口に入れた瞬間になんとなく、「ああ、こんな女もいたかもな」と思う程度で、その言葉をつい口に出しても怒らない女ばかりだ。
大抵は朝方に帰っていく女を見送ることもなく昼前に起き、生活をするために最低限の部屋の掃除をし、着ていくのに困らない程度に洗濯機を回し、身体に支障のない量の飯を食べる。
無駄に給料のいい夜勤の仕事を、求人情報で見つけたのは偶然だった。
しかしそのおかげで日中の視覚的に喧しい風景を見なくて済んだし、何よりどうせ連絡がとれないからと父親が電話をしてくるのを諦めてくれるのには都合が良かった。
そしてもう一つ。
暗闇に対して恐怖を覚えなくなった。
自分の中では人生を裏返すほどの大きな変化だったが、職場の人間も、入れ代わり立ち代わりやってくる女たちもそんなことは知る由もないので、誰も一緒に祝杯をあげてはくれなかった。
でも―――。
あいつは喜んでくれたんだよな。
誰だっけ――――。
誰――――?
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