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「トリアージカード。傷病者の緊急度や重症度に応じて治療優先順位を決定するためカードよ。これをあなたたちに預けるわ」
彼女はそう言いながら赤いラインの入ったカードだけ取ると、矢島に渡した。
「赤いラインはなんだかわかる?」
「……知るかよ」
仕方なく受け取りながら矢島は堀内を睨んだ。
「”緊急治療の必要あり”つまり”速やかに治療を開始すれば助かる人”よ。ぴったりでしょ?」
堀内は笑いながら話を続けた。
「患者は全部で7人。つまりあなたたちの他にあと5人いるわ。制限時間は10分。できるだけ多くの仲間を探しトリアージカードの赤を付けてきて。ゲームの頭数が少ないとあなたが不利になるわ」
話しながらストップウォッチを操作している。
「見つけられなかった仲間たちは殺すからそのつもりで」
「ーーこの……!」
睨み上げる矢島を無視して、堀内は話を続ける。
「問題です。患者がいる場所といえば?」
「―――病室……?」
妹尾が答える。
「御名答」
堀内の口が、ほうれい線を深く刻みながら左右に裂ける。
「―――いくわよ。よーいどん!!」
「………ッ!!クソが!!」
矢島は走り出した。
窓に駆け寄る。
施錠されていない掃出窓はあっけなく開いた。
「―――病室だぁ?」
広い病院を見回す。どこから向かえばいいのだろう。
「こういうところは1階が診察室で、2階3階が病室だと思う!」
妹尾も中に駆け込んでくる。
「手分けして探そう!私は2階を探すから、矢島君は3階をお願い!」
そう言うと彼女はハイヒールをその場で脱ぎ捨てて走り出した。
「―――あ、ああ!」
その判断の速さに少々面食らいながら、矢島も走り出す。
堀内は“お仲間”と言った。
もし妹尾の他にも自分の知り合いがいたら―――。
もしその中にあの女もいたとしたら―――。
『―――見つけられなかった仲間たちは殺すからそのつもりで』
「――――ッ!!」
気持ちだけ焦って足がなかなか前に進まない。
煙草なんて辞めておけばよかった。
「チッ」
矢島は舌打ちをしながら、翳りゆく薄暗い病院の中をスニーカーが擦る音を響かせながら走り続けた。
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