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◇◇◇
3階まで駆け上がると、正面に食堂が見えた。
その脇を通過し、中庭の南側と東側をL字に囲むように並んでいる病室を一つ一つ開けていく。
ベッドが4つずつ配置されている。
しかし古いマットレスが敷かれているだけで掛布団や毛布はない。
テレビやパイプ椅子もない。
ここが病院として使われていたのはもう何年も前のようだ。
次々に部屋を開けていく。
誰もいない。
病室じゃないのか?
でもそれじゃあどこにーーー。
4つ目の病室を開けたとき、ベッドに寝転んでいる脚が見えた。
「―――!」
焦げ茶色のチノパン。チェックのシャツ。
上半身は半端に引かれたカーテンで見えない。
”お仲間”。
それが知り合いとは限らない。
もし監獄実験で一緒だった馬場園のようにこちらに敵意むき出しの男だったら。
もし砂子みちるのようにすでにバーストして覚醒している人間だったら。
―――迷うな……!!
懐かしい声がしたような気がした。
矢島は病室に踏み込むと、カーテンを一気に開け放った。
「―――んん……」
その音に、眠っていた男が反応する。
つけたままの眼鏡がその動きに合わせて斜めにずれる。
「――お前は……」
そこに眠っていたのは―――
雨宮文彰だった。
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