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「お前、どうして……?てか、ここどこ?」 猪股は出来上がった身体とは裏腹にまだ幼さの残る大きな目を見開いて矢島を見つめた。 「ーー仲良く話なんかしてる時間はねえ!」 矢島は猪股の赤いユニフォームにトリアージカードを貼ると、残ったカード3枚のうち2枚を猪股に渡した。 「2階に妹尾っていう女がいる。その女と一緒に残っている人間を探してこのカードを貼れ!」 「―――はぁ?」 猪股が眉間に皺を寄せる。 「―――急げ!もしかしたら倉科や高野もいるかもしれない!」 言うと彼はその名前に反応したのか、火がついたようにベッドから飛び降りると、そのまま廊下に駆け出した。 「ーーわっけわかんねえ!」 叫びながら走り続ける猪股に続いて矢島も廊下に飛び出す。 しかし猪股はすでに角を曲がり、階段に差し掛かるところだった。 さすが現役のサッカー選手だ。 ”俊足の猪股”は健在かつ進化していた。 これで2階はなんとかなる。 矢島は隣の病室を開け放った。 誰もいない。 その隣。 誰もいない。 今、どれくらいの時間が経過したのだろう。 矢島が見つけたのは2人。これで4人だから、残るはあと3人だ。 猪股にはああ言ったが、本当にその中に倉科はいるのだろうか。 そして、高野は―――。 ガタン! どこからか音がした気がした。 振り返る。 そこには見通しのいい食堂があった。 しかし誰もいない。 「―――?」 2階にいる誰かが音を出したのだろうか。それとも起き上がってきた雨宮か。 構わず病室を開け続ける。 3階の病室にはもう誰もいなかった。 先ほど上がった階段とは逆の北東の階段から駆け下りる。 2階の廊下に差し掛かったところで、全速力で疾走していく猪股が通り過ぎた。 「猪股!誰かいたか!」 呼び止めると、息ひとつ乱してない猪股が戻ってきた。 「いたよ。車椅子の男が一人!」 「―――車椅子?倉科じゃないのか?」 「ああ。知らん顔だった!」 妹尾が反対方向から掛けてくる。 「矢島君の友達……?」 胸を抑えて苦しそうに息をしている。 「ああ。誰かいたか?」 「南側の病室は全部見たけど、誰もいなかったわ」 「あと何人いるんだよ?」 猪股が矢島を見上げる。 「これで5人だから。あと2人いるはずだ」 「―――病室じゃないとすると……」 妹尾が眉間に皺を寄せる。 「トイレ―――?」 「――――!」 先ほどの音―――。 食堂からかと思ったが、その脇にあるトイレからだったかもしれない。 「ーーー俺、もう一度3階を見てくる。お前らはもう2階と1階のトイレを頼む!」 言うが早いか、矢島は再び降りてきた階段を駆け上がり始めた。
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