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◇◇◇ ―――考えるな!走れ!! 頭の奥でまた声がする。 考えまいと思うのに、どうしても考えてしまう。 矢島、妹尾。 そして雨宮、猪股。 車椅子の男性が誰かはわからないが、ここにいるのは十中八九、清宙会が実施した人体実験で生き残ったメンバーだ。 そう考えると、矢島が知っている中でまだ見つかっていないのは、 倉科と高野―――その“2人”だ。 「制限時間まであと3分ー!」 階段の下から堀内の声が響く。 「―――あの豚……!!」 階段を上り切り、東側の廊下を通り抜け南側の廊下を駆け抜ける。 「―――矢島……お前、矢島か!?」 声が後ろから追いかけてくる。雨宮だ。 しかし構っている時間はない。 横目で彼がちゃんとカードを付けていることを確認しながら、食堂に折れる。 目指すは―――隣にあるトイレだ。 男子トイレのドアをぶち壊す勢いで開ける。 小便器の前、いない。 3つの個室、いない。 飛び出したところで目の前に雨宮が立っていた。 「おい……」 「どけ!!!」 長身な身体を突き飛ばすと、隣の女子トイレを開ける。 「きゃあああ!!!!」 開けた瞬間悲鳴が聞こえ、個室に逃げる影が見えた。 「あ、おい!!」 内側から鍵を掛けられてしまう。 「おいって!!!」 「近づかないで!!!」 割れる悲鳴は高野か否か、判別がつかなかった。 しかし―――、 「近づいたら殺すから!!!!」 「――――」 ーーー高野ではない。 高野はーーー あいつはーーー そんなこと言える女じゃない。 「――――チッ」 胸を覆うこの感情が安堵なのか、それとも落胆なのかはわからなかった。 矢島は個室のパーテンションを掴むと、壁に足をつきながらよじ登った。 「―――おい」 上から覗き込む。 目に入ったのは緑色の制服だった。 ―――女子高生? 髪の長い彼女はこちらを見上げて涙を溜めていた。 その手には小さなナイフが握られている。 「……そんな物騒なもん、どこで拾った」 矢島は目を細めた。 「制服のポケットにいつも入れてた……」 少女がガクガクと震えながら矢島を見つめる。 「ーーお前も人体実験の被害者か?」 「……あなたも……?」 少女の目が僅かに期待に見開かれる。 「そうだ。だから俺を信じて出て来い。時間がない」 「……………」 少女は一瞬迷った顔をしたが、それでも解錠した。 ため息をつきながら矢島は飛び降りると、開く扉ごしに彼女と対面した。 「とりあえず、このカードを付けろ。そうしないと死ぬぞ」 彼女はそれを見下ろした。 「……あなたは?」 「は?」 「あなたは、付けてないわ」 「――――」 矢島は自分のジャージを見下ろした。 「いや、俺は―――」 「矢島くーん。見つかったぁー?」 「―――!!」 少女の目が見開かれる。 矢島は振り返った。 ストップウォッチを持った堀内がニヤニヤと微笑んでいた。
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