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「てめえ……!!!」 「あと30秒よ、矢島くーん?」 わざと身をくねらせながら、親しげに矢島の肩に手を置く。 その胸には、清宙会のシンボルである鷹のマークの金色のブローチが光っている。 「――――!!」 少女が矢島と堀内の顔を見比べる。 「あなたも清宙会の人間なの?!」 「は?」 矢島は驚いて少女を見つめた。 「そのカードを貼られると死ぬの!?」 「違う!!」 矢島は叫びながらも頭のどこかで、少女の判断に納得していた。 ーーー自分だってそう思う。 見知らぬ男がカードを貼ろうとしてきて、かく言う男自身はカードを貼っていなくて、清宙会とわかる女が出てきて、親し気に名前を呼んだりしたら―――。 「近づかないで!!」 少女が震えながら、ナイフを自分に向ける。 「待てよ。俺はこいつの協力者なんかじゃない!これを付けないとお前が殺されるんだ!」 「信じられない!!」 「―――ッ」 矢島は振り向きざまに堀内の顔面に拳を撃ちこんだ。 堀内がよろけ、表情一つ変えないまま両方の鼻孔から血を吹き出させる。 本気で人間を殴るなんて久しぶりだ。右手に電撃のようにビリビリと痛みが走る。 「―――!!」 少女が両手で口を覆う。 返り血をあびた矢島は叫んだ。 「―――雨宮!!!この豚をトイレから引きずり出せ!!」 雨宮は言われた通り堀内の肩と腕を掴むと力づくでトイレから引っ張り出した。 「――――?ーーーー?」 少女の瞳が、矢島の頬についた真っ赤な血と、雨宮のシャツに貼られた赤いラインの入ったカードを往復する。 「……本当に味方?」 「そうだ!だからこのカードを……」 ナイフを持った方と逆の手が、震えながらカードに近づく。 しかし動作が遅い。 「―――!」 矢島はナイフを持った手首をぐいと掴み自分に引き寄せると、女子高生の胸にカードを貼った。 ピピピピピピピピピピピピ 同時に廊下からストップウォッチの電子音が鳴り響く。 「―――タイムアップ」 廊下から低い声が続く。 同時に少女の身体が光り始める。 「いや……いやぁ……」 涙をためた瞳がこちらを見つめる。 「矢島!危ない!!」 雨宮が矢島の身体を引き、少女から離した。 「―――おい!間に合っただろうが!!」 廊下から血だらけの顔でこちらを覗いてる不気味な顔に叫ぶ。 「いいえ、間に合ってないわ」 「―――!?」 雨宮を振り返る。 彼は視線を落として首を振った。 「―――そんな」 発光する女子高生を見つめる。 「あ゛ぁ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛あ゛」 痙攣する彼女の手の中でナイフがカタカタと音を立てる。 「―――やめろッ!!!」 雨宮に押さえつけられながら叫ぶ。 彼女の目と鼻と口の中が真っ白に光る。 「ギァァアアアアァァ!!!!」 断末魔と共に、彼女の身体は前方に倒れた。 肉の焼ける匂い。 矢島と雨宮は同時に腕で鼻を覆った。 「ーーーー」 死体を目の当たりにしてやっと本当の自覚が芽生える。 ーーー始まってしまったのだ、本当に。 一瞬の判断が命を奪う、死のゲームが………。 「―――さて、と」 堀内は何事もなかったように鼻血を取り出したハンカチで拭いた。 「2階のメンバーはどうだったかなー?最後の1人、見つけられたのかしら?」 「――――!」 この女さえ来なければ……! 「この豚女が……!いつか絶対丸焼きにして食ってやるからな!!」 矢島はトイレから飛び出すと堀内を突き飛ばし、再び廊下を走り始めた。 「あ、矢島…!?」 雨宮も追ってくる。 涙目で見つめながら光っていく少女の顔が、脳裏から離れない。 あれが、もしも倉科だったら。 あれが、もしも高野だったらーーー。 「っ!!!」 矢島は階段を飛び降りるように駆け下りた。
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