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「適当なこと言うなよ。あいつがお前らなんかにみすみす殺されるわけないだろうが……!」 低い声で言うと、堀内はフフと笑った。 「確かに、すごい力だったわ。薬を飲ませていたから、ほとんど身体の自由は利かなかったはずなのに。………やっぱり彼女の前だったからかしらね?」 「彼女って……」 矢島は血走った目で堀内を睨み上げた。 「ーーー高野も、一緒だったのか……?」 自分がした質問に反応するように、バキバキと音がした。 自分を形成している何かが、音を立てて剥がれていくような感覚。 体裁とか、 理性とか、 保守とか、抑制とか、 そういった3年間の社会生活で寄せ集めて培ったものが――― 今、音を立てて壊れようとしている。 「ええ。そうよ。まあ、彼女はどうでもよかったんだけど」 「―――高野の目の前で、倉科を殺したのか……!?」 目の前が赤い。 目の奥が熱い。 殻が剥がれ落ちて、真っ赤に濡れた部分が露出するような感覚。 俺は―――。 俺は、今―――。 ーーーコイツヲ殺シタイーーー 彼女が答える前に、矢島は堀内に掴みかかっていた。 「矢島!」 「落ち着け……!」 後ろから雨宮と猪股が肩と腕を掴む。 後方に反った身体の軸を持ち直すために後ろに一歩強く足をつくと、その勢いを利用して右足を振り上げた。 一発で顎が砕けるように。 一発で頭蓋骨が脛骨からずれるように。 この蹴り一発で、 コイツヲ殺――― 「―――――!!」 自分の脚が何かと強くぶつかったことで起こった風が、矢島の金色の髪の毛を撫でた。 視線を上げる。 そこには、鳥のマスクを着け、レンズの奥からこちらを見下ろしている真っ赤な目があった。
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