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「―――そんなの、スタートの時点で私たちの不利だわ」
声を発したのはやはり妹尾だった。
堀内が手で制すると、後ろにいるセレクターたちの連呼は綺麗に止まった。
「人間とセレクターの間に身体能力の差があるのは不公平でしょう?」
「あらあら。甘えん坊ちゃんね」
その言葉を受けて堀内はうんざりしたように笑った。
「その身体能力も、彼らが菌に感染しやすいという弱さと同じで、彼らの特徴の一つなんだけど?」
堀内は妹尾を睨んだ。
「―――確かにフェアじゃない」
次に口を開いたのは、雨宮だった。
「あなたまでそんなことを―――」
「身体能力の差についてではない。彼らがあらかじめこの実験を知っていて、準備してきたのに比べ、俺たちはある日突然、日常を阻害されて強制的に連れてこられた。心身ともに準備ができてない」
雨宮は彼女を睨んだ。
「その点についてはどう埋める」
「―――そ、そーだそーだ!」
猪股が控えめに応戦する。
「確かに―――不公平といえばそうね」
堀内は目を細めて考えた末、パチンと指を鳴らした。
「わかったわ。じゃあ、こうしましょう。今からこの病院内に微量のウイルスを充満させるわ。人間にとっては何ともなくても、セレクターたちはマスクをしていようが少しずつ身体が蝕まれていく。おそらく最終日はフラフラよ。それでいい?」
「―――そんな……じゃあ、私たちの身体はどうなるんですか?」
今まで黙っていたセレクターの女が前に飛び出した。
一番端にいた太った女だ。
「大丈夫。あなたたちが勝てばちゃんと抗体を投与してあげるわ」
堀内は彼女を振り返った。
「それにしたって……。聞いていませんよ、ウイルスだなんて!」
「今思いついたんだもん、当然でしょ」
「ーーーー」
矢島は顎を強く横に振って堀内の手を払うと、鼻で笑った。
「豚と鶏………家畜共の仲間割れか?」
「……………」
堀内は横目で矢島を睨むと、胸元からなにやらリモコンのようなものを取り出した。
「―――あなた……清宙会の人間で在りながら、私に逆らうってどういうこと?」
「………え、何も逆らったわけじゃ……」
堀内はため息をつきながらボタンを押した。
「――――っ!!!!!」
先ほどの女子高生と同じく女が発光し始める。
猪股と雨宮が慌てて矢島を後ろに引く。
妹尾も海藤の車椅子を引いた。
「ああああああああ!!!!」
真っ黒な鳥のマスクが、真っ赤に燃え上がる。
目のレンズがパリンと音を立てて割れる。
くぐもった悲鳴が聞こえてくる。
「………っ。誰が焼き鳥を作れって言ったよ!」
矢島が革の燃える匂いに腕で鼻を覆いながら、堀内を睨む。
堀内は顔色一つ変えず、目線一つ動かさずに矢島を見ている。
他のセレクターたちを見る。
皆一様に後ろに手を組んで動かない。
ただメラメラと燃えていく炎の光を白衣に受けながら、整然と待っている。
”仲間”の命が燃え尽きるのを―――。
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