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ことが終わると、女はベッドから滑り落ちながらインナーだけ身に着け、照明もつけないままテレビを付けた。
セックスした後にくっつこうとせずにあっさりとしている女は嫌いじゃない。
矢島馨はぐるりと身体を返してうつ伏せになり、汗に濡れた金色の髪を掻き上げた。
『今日のニュースおさらい!のコーナーです。
株式会社TOKODA自動車は、今年春から発売を開始した、次世代型ハイブリットカーでリコールを発表しました』
深夜の静かなニュースが流れ始める。
「……マスコミ発表、今日だったのか」
矢島はぼやきながら女の肩に手を置き、指で煙草の合図を送った。
『これは衝突回避オートブレーキシステムに置いて重大な感知機能の欠陥があるということで、およそ2万台が対象となる、事実上、令和に入ってからの一番大きなリコールとなります』
「え、じゃあリコール対応忙しい感じ?」
女が振り返る。
「対応すんのはディーラーで、俺らはその部品の製造」
女が渡してくれた煙草を口に咥え、ライターで火をつけると、女は「私も一本貰っていい?」
と微笑んだ。
「値上がりしたんだから味わって吸えよ」
つい嫌味が飛び出す。
「やだー。貧乏くさいー。メーカー夜勤で稼いでるくせにー」
女は笑いながら煙草を口に咥えると、矢島の指からライターを奪い取って火をつけた。
『次のニュースです。2021年1月をもって破産手続きをし、事実上消滅した新宗教団体 清宙会の元代表、石山崇死刑囚の刑が、本日執行されました』
ピクリと身体が反応する。
暗闇の中で煌々と光るテレビの画面を、矢島は肩甲骨を浮き上がらせながら振り返った。
『石山崇らは、”来る選別の日に関する人類の行く末を見守ること”を目的に立ち上げた新宗教団体 清宙会の教祖として、人体実験を繰り返し、死者の数は全国で58人にも及ぶという日本史上まれにみる犯罪宗教団体を築き上げました』
法廷でも見た石山崇の顔がアップになる。大柄で太っていて、どこにでもいるような狸親父だ。
『死刑執行の朝、石山死刑囚は家族または元信者たちに対して、次のような言葉を残しています』
画面の中のアナウンサーが視線を上げてカメラを見る。
『死して尚、私の意志と想いは残り続ける』
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