383人が本棚に入れています
本棚に追加
「―――矢島……」
肩の骨を盛り上げながら画面を眺めていた矢島を女が振り返る。
「大丈夫?」
「――――」
矢島は画面から目を逸らすと、ベッド脇の灰皿に灰を落とした。
「―――何が」
「……だってこの団体って……」
「どっかのおっさんが死んだニュースなんざ、興味ねえな」
そう言いながら煙草を咥える矢島に、女が弱く笑った。
『ーー続いてはスポーツです!』
ガラリと音楽を変えてニュースは続いていく。
『イタリア1部リーグセリエAに史上最年少で所属した、猪股桂一郎選手が、本日練習試合中に、他のチームの選手と接触し、右足の靭帯を切る重傷を負いました。現在は治療中で、療養のため日本に一時帰国するということです』
「……へ。ざまあ」
思わず笑いが込み上げてくる。
「あー。イケメンだからって僻んでるんでしょ」
女が振り返る。
「大丈夫!矢島も十分イケメンだから」
変なフォローをされながら、頬に唇を落とされる。
その熱っぽい瞳から、彼女が“ロスタイム”を望んでいることが分かったが、如何せんもう夜中の3時だ。
夜勤なので昼過ぎに起きれば十分間に合うのだが、明日の激務ことを考えると体力は温存しておきたい。
真面目にやる気などさらさらないが、ミスして怒鳴られる気も毛頭ない。
矢島は女の熱い視線には気づかなかったふりをして煙草を潰すと、寝がえりを打って目を瞑った。
工場での疲労と、色疲れが重なって、たちまち睡魔に犯され眠りについた。
最初のコメントを投稿しよう!