プロローグ

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◇◇◇ 「つまりはさー、俺は宇宙じゃなくて世界に目を向けろって言いたいわけー」 先ほどの友人が、食堂で熱弁を振るい始める。 「脳科学ではさ、脳内のイメージを映像化する技術が進歩してるんだって。 そもそも人間の視覚情報は大脳後頭葉にある”視野部”という部位で階層的に作りだしてるんだけど、そこの映像化を韓国が中心になって進めてるらしくてさ。 もし実現すれば、他人の夢や記憶をテレビで見たりができるようになるってことなんだぜ。つまりは昨夜の女と何したかまでわかるようにーーー」 「こら。研究に不純な動機が混ざると、公平公正な結果が出なくなるぞ」 倉科は持っていたノートの側面で彼を叩いた。 「さすが。首席で入った男は違うねー」 「何年前の話だよ」 自分で言いながら、倉科は笑った。 そうだ。もう入学してから2年半も経った。 事件からは4年が経ったのだ。 世間はもう忘れかけている。 少なくとも、全国指名手配された自分と彼の顔写真は。 「そういえば、倉科、今日の飲み会行くだろう?」 もう一人の友人が振り返る。 「ああ、顔だけ出そうかと思ってるよ」 「顔だけじゃなくてケツまでちゃんといろよー。お前、ちょっとかっこいいくせに付き合い悪いって学科の女子から苦情出てるぞー」 「ーーえ、それは困るな」 「彼女持ちだからって、もう少―し気を遣わないと、本格的なゼミが始まる4年になった時、結構辛いぜ?」 「はいはい、わかったよ」 倉科は諦めのため息をつくと、スマートフォンでメッセージを送った。 【 ごめん、今日は会えないかも 】
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