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「―――どういうことだよ」 「嘘をついているっていう自覚はないし、人間(こっち)が本当だとは思うからライアーではないと思うんだよね。だからリバーシブルかな、多分」 「そうじゃねえだろ!」 矢島は声を荒げて言った。 「お前、最近でも砂子に代わったりしてんのかって言ってんだよ!」 矢島の目を見つめる瞳が揺れる。 「……あれから一度もまだ砂子に代わってない」 「じゃあ、違うだろ!」 「でも、夢を見るんだ」 海藤は震える声で言った。 「ーーー俺の意志なんて関係なしにさ。飛び掛かってくる男も女も血だらけにしてふっとばしながら暗闇の中を走っていく夢」 そう言いながら、回想するように瞼を閉じる。 「……暗闇なのに視界は真っ赤でさ。何人、何十人殺したかもわからない。でも闇雲に走っていった先にいつもいるのは―――」 海藤は瞼を開けて、矢島を再度見た。 「振り返った、君なんだ」 「―――俺……?」 「その夢を見るたびに僕は病院で暴れて、パニックになりながら医師や看護師の制止を振り切って窓から飛び降りた」 「―――は?」 「3回目に飛び降りた後、この通り足が動かなくなった」 「―――海藤」 「……俺の中での砂子は死んでいない。消えていない。いつもきっと俺の“裏側”で出る機会をうかがってる」 「ーーそんなの、お前の勝手な妄想だろ?」 「違うよ。感じるんだ。確かに俺の中で彼女が脈打ってる」 海藤はそう言うとパジャマの胸をグッと掴んだ。 「矢島君。もし俺が裏返ったら。砂子になったら。俺を殺してくれる?」 「ーーーー」 「俺は―――。俺はこんな足で、自分を殺すことさえできない」 海藤は視線を上げて、屋上の柵を見上げた。 「ーーーー」 再度つられて矢島も胡坐をかいた低い視線から見上げる。 錆びた金網の向こうに見える青空は、なんだかいつもより遠いような気がした。
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