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ぼくを拾ってくれた人たちはとても優しかった。
寒さに震え、飢えて死を待つだけだったぼくに温かい食事と家を与えてくれた。
「よしよし、やっと元気になってきたな」
ぼくよりもずっと長く生きているおじいさん。
毎日優しく撫でながら声を掛けてくれる。
「でしょ。きっとあたしの看病がよかったんだよ」
そして、ぼくのお世話をぜんぶやってくれている女の子。
この二人に、ぼくはいろいろなことをと教えてもらった。
トイレは決まった場所でしなきゃいけないとか、おさんぽのときのルールとか、ごはんを出てきたときはちゃんと声をかけてもらってから食べるとか。
「コラッ逃げないの! お風呂入らないと汚いでしょッ!」
お風呂が嫌いで叱られたりもしたけど。
毎日がとても幸せだった。
ぼくのために大きな公園に連れてってくれたり、一緒に車に乗って遠くへ旅行したこともある。
旅行でいったところは自然がいっぱいあって、きれいな花がそこら中に咲いている場所だった。
今でも二人と歩いたその光景が忘れられない。
また何度でもいきたいと思ったところだった。
だけど、そんな日々も今日で終わる。
ぼくの寿命がきてしまったから――。
「ねえ、おじいちゃん。この子、なんかずっと元気ないよぉ」
「残念だけど、もうすぐお迎えが来るんだよ」
おじいさんはぼくの命が長くないことに気が付いているみたい。
でも、女の子のほうはどうして元気がないのわからないみたいで、ぼくの顔を見るたびに悲しそうに撫でてくれる。
情けない声で鳴いちゃダメだと思った。
呼吸も苦しくなっているけど、元気な姿を見せてあげなきゃ。
今のぼくにはこれくらいしか恩返しができないけど。
本当に感謝してるよ。
こんなぼくを拾ってくれて。
女の子もおじいさんも、本当に優しい二人だった。
なんでそんなに優しいんだろう。
なんでそんなにあたたかいんだろう――。
「無理しないでいいよ。でも、あなたの元気な声を聞けるのは嬉しい」
抱きしめながらぼくのために泣いてくれる女の子。
「もう一度お前と、花を見に行きたかったな」
そんな彼女と一緒に涙を流して、頭を撫でてくれるおじいさん。
ありがとう、ありがとう。
二人と出会えてぼくは本当に幸せだったんだよ。
――その次の日の朝、二人に拾われた犬はその姿を消していた。
どこへ行ったのか。
女の子はおじいさんに声をかけて周囲を探したが、結局は見つからなかった。
二人が諦めて家に戻ると、犬が住んでいた犬小屋の側に、植えた覚えのない大きな花が咲いていることに気が付く。
「おじいさん、あれは……?」
「あぁ、きっとあいつだよ。あいつがわしらのために」
女の子はそっと犬小屋の側に咲いていた花に触れて、優しく撫でる。
「お花……ありがと……。ゆっくり休んでね……」
了
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