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第1夜
ガラガラガラガラ…
半年前に偶然出会った私と神官の彼は今も2人で共に旅を続け、季節はいつの間にか秋になっていた。
旅の途中で荷馬車に乗っていた親切な農夫のおじさんに出会った私と彼は荷台の上ですっかり高くなった秋の空を眺めていると彼が不意に口を開いた。
「ローザ」
「何?」
「もうすぐ次の目的の場所に到着します。その町に…」
「はいはい、分ってるってば。ブギーマンが現れるって言うんでしょう?」
「え、ええ…そうです」
彼は何だか落ち着かない様子で言う。
「ねぇ?一体どうしたの?私と一緒にブギーマンを倒す旅に出てから、もう今までに10体以上のブギーマンと戦って勝って来たじゃない。それに今までは『ブギーマンが現れる』なんて事前に教えてくれた事すらなかったくせに今回に限っては一体どうしちゃったの?」
私はいつにまして今回の彼の様子が普段と違う事に気付き、問い詰めてみる事にした。
「ねぇ…何で今回に限って『ブギーマン』が現れるって話してくれたの?あ、それとも毎回毎回神出鬼没に現れて、突然『ブギーマン』との戦いに巻き込まれてきた私に申し訳ないって思う気持ちから事前に教えてくれる気になれたのかな?」
荷台の上で膝を抱えて座りながら彼に言った。
「いえ…そうではないんです…ただ、今回の『ブギーマン』との戦いだけは‥今まで以上に気を引き締めてかからなければならないので…」
彼は自分の膝の上で両手を組みながら言う。その手は…荷台の揺れによるものなのか、それとも緊張によるものなのか、震えて見えた。
「トビー…?」
私は空をじっと見上げているトビーの顔を見つめた。その顔は…相変わらず、悔しい程に恰好良かった。
その時―
「おーい、お2人さん」
馬の手綱を握りしめていたおじさんが私達の方を振り返り、声を掛けて来た。
「何ですか~」
私が返事をするとおじさんが言った。
「ほら、町が見えて来たぞ」
「え?本当ですか?」
荷台の上から立ち上がって、おじさんの指示した方角を見ると前方に久々の町並みが見えていた―。
****
町の入り口付近で荷馬車のおじさんは私達を下ろすと、次の目的地へ向かって去って行った。
「「ありがとうございましたー!」」
私と彼は手を振っておじさんの荷馬車が見えなくなるまで手を振っていると、やがてトビーが声を掛けて来た。
「さて、では行きましょうか?ローズ」
「うん。でも…行くって何所へ?」
「この町には教会が沢山あるんですよ。まずは一番大きな教会へ行ってみましょう。きっと何とかなりますから」
「何とかなるって…」
相変わらずトビーは能天気だ。彼は神官だから教会に行けば優遇されるけど、私はただの彼の付き人。いっつもいっつも無理矢理頼み込んで、教会の片隅に寝泊まりさせて貰っている。
「大体さ…町の平和を守る為に『ブギーマン』を倒してあげてるんだから、討伐料とか、謝礼金を貰ったっていいくらいなのに…」
前を歩くトビーの耳に聞こえない様にブツブツ言いながら歩いていると、不意に彼は足を止めると振り向いた。
「ローザ、それは違いますよ。僕が『ブギーマン』を倒す旅を続けているのはその町や村の為じゃありません。僕自身の為なのですからね?」
トビーは自分の胸をバシバシ叩きながら言う。
「あーハイハイ。分ってるってば。ブギーマンに掛けられた自分の呪いの呪縛を解くために戦っているんでしょう?」
「ええ、そうです。だから時にはブギーマンの存在にすら気付いていない村があったじゃありませんか?」
ひょっとして、この間ブギーマン討伐で訪れた村の事を言っているのだろうか?確かにあの村では毎晩誰かが行方不明になり、翌日死体となって発見されていても‥最後までオオカミの仕業だと信じてやまなかったっけ…。
「ね、ねぇ…ところでさ…何だかこの町…様子が変じゃない…?」
私はさっきから感じていた町の異様な雰囲気が気になって仕方が無かった。何故なら町を歩く人々が全員奇妙な衣装を着ているからだ。背中に羽根が生えたようなデザインの衣装だったり、まるで墓場から蘇って来たかのようなボロボロの服を着てはだしで歩いていたり‥うわっ!あの人なんかまるで血まみれに見える服を着てるよ!
すると彼が言った。
「ええ。今夜、この町ではカーニバルが行われるからですよ」
「カーニバル?どんな?」
するとトビーが振り向くと言った。
「悪霊や死者に変装して‥町を練り歩く1年に1度きりのカーニバルです」
トビーの口元は笑みを浮かべていたが…眼だけは真剣な光を帯びていた―。
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