第7夜 <終>

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第7夜 <終>

 彼が叫んだ途端…突然空中で声が聞こえた。 「トビー…まさかここまで無茶なことをするとは思わなかったわ」 「えっ?!」 聞き覚えのある声に驚き、上を見上げると何と空中にレリアナが浮いているのだ。そしてレリアナは血まみれでようやく立っている彼の前にフワリと降り立つと言った。 「可愛そうなトビー…こんなに血まみれで…立っているのがやっとじゃないの?痛いでしょう?苦しいでしょう…?」 そして愛しげにトビーの頬に手で触れる。しかし、トビーは荒い息を吐きながら笑みを浮かべると言った。 「やっぱり…レリアナがブギーマンだったのですね…?何故そのような姿になったのですか…?」 するとレリアナは眉を釣り上げると言った。 「それはね…この町に住む人間たちのせいよっ!」 「彼等は…自分で罪を犯しておいて…私にその告白をしたくせに…それなのに、自分たちの秘密を知ったからって…!この村の男達が…よってたかって私を…汚したのよっ?!し、しかも…大勢で…っ!私は必死で泣いてやめてと叫んだのに…誰も助けてくれずに私を…っ!神に仕えるこの私をっ!!」 「!!」 あまりの衝撃的な内容に私は頭がくらんだ。な、なんて酷いことを…! 「全てに絶望し…私は、私を汚した男たちを呪ったわ…その時、ブギーマンが現れたのよ。私の復讐に手を貸す代わりに…私の血と肉を捧げろって…!だから私は自分の身体を捧げ…ブギーマンになったのよ。丁度トビーがこの町を訪れて立ち去った直後の事だったわ…」 彼はじっと話を聞いていたが、やがて笑みを浮かべると言った。 「可哀想に…レリアナ…相当、人間たちを食って来ましたね…?もうその姿を保っているのも本当はやっとでしょう…?辛いでしょう?そろそろ本性を現したらどうですか?」 「トビー…元はと言えば…貴方がこの町を出ていかなければ私はこんな目に合わなかったのよ…!」 レリアナが怒りの顔を浮かべた途端…まるで彼女の身体が風船で膨らんだかのようにボコボコと膨れ始める。肌はまるで巨大な岩のようななり、醜いゴーレムのような姿にと成り果てた。 そして…大きく腕を振り上げて彼に襲いかかる。 「トビーッ!!」 「ローザッ!これをっ!」 トビーが首から下げていたロザリオを外すと私に投げてきた。 ヒュッ! 飛んできたロザリオを何とか空中でキャッチすると私は彼を見た。 ボコッボコッボコボコ…ッ!! 「ううっ!!」 トビーの封印が解け、真のブギーマンの姿へ変身する―!! やがて、私の眼前で巨大な2体のブギーマンがぶつかりながら激しい戦いを始めた。 ああ、でも圧倒的に不利な戦いだ。既に傷を負った彼は激しく出血しながら戦っている。しかしレリアナは彼の負傷した腕ばかり狙って蹴り上げたり殴りつけたりしているのだ。それに…彼にはどこかためらいを感じる。相手がやはりレリアナだから? 「トビーッ!剣を…剣を抜いてよっ!」 私は地面に落ちていた彼の剣を拾い上ると彼の元へ走った。何としても剣を…! 「トビーッ!剣を持ってきたわ!」 トビーに駆け寄った途端、レリアナが私の姿に気付き、踏みつけようとした。 「キャアアアッ!!」 するとそれに気づいたトビーが体ごとレリアナにぶつかっていく。 ズシーンッ!! 倒れ込むレリアナにトビーはすかさず剣を拾い上げた。すると不思議なことに剣が今の姿のトビーの背丈に遭わせて大きくなる。なのに…トビーは剣をレリアナに向けることが出来ない。そんな…!その隙をレリアナが見過ごすはずはなかった、レリアナはトビーから剣を奪うと、逆にその胸を突き刺したのだ。 「キャアアアッ!!トビーッ!!」 私は絶叫した。彼は物言わず地面に倒れ込む。 「トビーッ!!」 尚もレリアナはトビーに剣を振り下ろそうとしている。私はとっさに何かぶつけて妨害しようとポケットに手を突っ込み…聖水の入った瓶に触れた。それを考えもなしに投げつけた瞬間、ビンから井戸水が溢れてレリアナの身体に降り注ぐ。 「ぎゃああああッ!!」 絶叫するレリアナ。それを見逃さない彼は剣を拾い上げた。 ザクッ!! トビーの剣はレリアナの身体を貫いていた。 「ギャアアアッ!!」 激しい断末魔と共にレリアナの身体が元に戻っていく。私は素早く彼にロザリオに触れさせると、トビーの身体も徐々に人間の姿へと戻っていく。 そして…地平線から太陽が顔を見せ始めた―。 **** 2日後― 「トビー…行かないの?」 私は真新しい墓標の前に立ち、可哀想なレリアナの為に祈りを捧げているトビーに声を掛けた。あの後…私とトビーはレリアナを埋葬するために数日町に滞在したのだ。 「すみません、今行きます」 彼は顔を上げると言った。私と彼は次の目的地へ向かうのだ。 「ねぇ…トビーはレリアナの事…」 不意に私はトビーとレリアナの関係が気になり、尋ねてみたくなった。 「なんですか?ローザ」 けれど、こちらを振り向いたトビーの顔を見た途端、何故かどうでもよく感じてしまった。 「ううん、何でも無い。それで?次は何処へ行くの?」 「次は西へ向かいます。そこにブギーマンの気配を感じます」 「よし!西ねっ?!それじゃまた誰かに馬車に乗せてもらえる事を祈りましょう?」 「ええ、そうですね?」 そしてトビーはどこか満足そうな笑みを浮かべて、私を見た―。 <終>
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