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夕日
町田は死にかけていた。
景色は街中から、段々と民家もまばらな山間部に向かって車は走っていく。
身体中がズキズキと痛んだ。
虚な目で流れる外の車窓を眺める。
これが人生最後の風景かと投げやりな気持ちでぼんやりと見ていた。
何でこんな事になったのだろう…
元々、町田は友人と小さなリフォーム会社を経営していた。
従業員数は5、6人程の零細企業だったがそれなりに食べていける程度の利益は出していた。
ケチのつけ始めは、友人が会社の運転資金をもって失踪した事から始まった。
そこで会社を諦めてしまえばよかったのだが、無理をして町田は方々から借金をして運転資金を調達した。
そんな矢先、事務所に空き巣が入り必死に工面した運転資金が盗難にあってしまった。
会社も自宅も失い、町田には借金だけが残った。
世間ではよく聞く話だったが、まさか自分の身にこんな事が降りかかるとは思ってもいなかった。
自暴自棄になり一攫千金を夢見てあやしげな仮想通貨への投資を始めたが、そんな物が上手く行くはずもなかった。
借金は減るどころか逆にどんどん膨らんでいき、生活は困窮を極めた。
闇バイトの出し子の仕事を知ったのはそんな時だった。
他人名義のキャッシュカードから限度額の50万を引き出せれば、2万のバックが出た。
出し子のバイトを続けるうち欲が出てしまったのが不運のとどめだった。
回収係の後をつけて詐欺グループのアジトを突き止めたまでは良かった。
現金があるのはわかっていた。
警察には届けられない金だ、奴らさえ出し抜ければなんとかなると盗みに入った結果がコレだ。
ボコボコにされた後、何処かに運ばれていた。
着いたのは寂れた産業廃棄物の埋め立て場だった。
「オラ 行け」
車から降ろされると、後ろ出に手錠をかけられたままフラフラしながら奥に向かって歩かされた。
2人のウチ1人は工事現場で使うような黄色と黒のロープを持っていた。
絞殺か…と他人事のように考えていた。
辺りは夕焼けで真っ赤だった。
こんな時なのに子供のとき見た夕焼けを思い出していた。
夕飯を作っているまだ若い頃の母親の顔が頭に浮かんだ。
夕日の赤が目に染みる。
「この辺にするか」
男がもう1人に声をかけた。
その場に膝まづかされると首にロープが巻かれる。
反撃を試みるには、もう疲れすぎていた
男達が町田の両脇に立つと、町田は観念して目を閉じた。
その時
「おい…火、貸してくれ」
酒やけした、しゃがれ声があたりに響いた。
3人が振り向くとそこには、痩せぎすの手足が長い男が立っていた。
逆光で顔は見えないが、ルパンみたいなシルエットだと町田は思った。
「オイぼけ お前ここで何やってる」
男の1人がルパンに詰め寄った。
ルパンに掴みかかろうとした瞬間、パンと乾いた音がすると男は倒れた。
続けざまに
パン パンと音がすると今度は町田の脇にいた男が倒れた。
ルパンは持っていた拳銃を地面に置いて
倒れた男のポケットをあさると煙草を吸い始めた。
一服吸い終わると拳銃を拾い上げ、コチラに向かって歩いてくる。
町田には何が起きたか分からず、放心したまま動けずにいた。
「お前 幸が薄そうだな…」
ルパンは膝まづいたままの町田を見下ろすとこう続けた
「なあ 神を信じるか?」
町田は首を横に振った
「アンタ いったい何者だ?」
ルパンはニヤリと笑った。
「俺か? 俺はただの宣教師だ」
意味不明な返答が帰ってきた。
「俺も殺すのか?」
「殺して欲しいのか?」
町田はまた首を横に振った。
「何で助けた?」
「全ては神のおぼしめしだ。」
2本目の煙草を吹かしながらルパンは言った。
今、思い出せばその言葉には嘘はなかった。
しかしこの時の町田には、この男は凶暴な悪魔にしか見えなかったし、それはあながち間違いではなかった。
それが俺と伊藤の出会いだった。
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