オオゲツヒメ

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オオゲツヒメ

どういういきさつで、そんな話しになったかは覚えていない。 飲み会の席で隣になった史学部の高木という学生がしてくれたのは、その昔、オオゲツヒメは空腹のスサノウノミコトに自分の目や口や鼻、耳や肛門から出した材料で料理を振る舞ったと言う。 結果として、その事を知ったスサノウノミコトは怒り狂った。 オオゲツヒメをバラバラにして地面にばら撒くと、そこから様々な作物が芽を出して国土を潤した、という神話だった。 私が、「オオゲツヒメは何で排泄物で料理なんて作ったんだ?」 と高木に尋ねると 「オオゲツヒメは神様だからそれは排泄物じゃない。出した場所が悪かっただけだ」 と、こともなげに答えた 「それにしたってなぁ」 と私が言い淀むと 「最後は趣味嗜好の問題だ。 スサノウノミコトの趣味があえば問題はなかったはずだ」 と下品な笑い声をあげていた。  そして高木はこうも続けた、 「オオゲツヒメには料理ほど有名じゃないけどもう一つ特技があったんだよ… いわゆる未来予知、人の寿命がわかったらしい… 俺としてはスサノウノミコトはそっちの特技の方が面倒臭くて、オオゲツヒメをバラバラにしたんじゃないかと思っているんだけどな… まぁ大昔の噂話しだ、今となっては誰にもわからん」とまた笑った。 食べ物と寿命の予知、ドキリとした私は動揺を悟られないように飲み続けた。 私の特技?は昔起きたある一件以来、誰にも話をしていない。 私もいつかバラバラにされる程、疎まれる日が来るのかも知れない。 出来ればもっとありきたりで、楽な死に方がいいなと何となく考えていた。
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