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死神
死神は人の寿命を奪うのか?
寿命が尽きるのを知って、やってくるのか?
前者と後者では、だいぶ意味あいが変わってくる。
小学生の頃、私の左前の席に、恵美ちゃんという女の子が座っていた。
恵美ちゃんは男まさりの性格で口が達者だった。
私とは正反対の性格で、よく口喧嘩になった。
もちろん口喧嘩で私に勝てる道理などなく、取っ組み合いまでにはならなかったが、お互いの教科書やノートを窓から投げ捨てて、担任の教師にひどく怒られていた。
そんなある日、母親とスーパーで買い物をしていると、恵美ちゃんのママに会った。 母親同士のお喋りは盛り上がり、私は暇に任せ店内をウロウロしていた。
お菓子の袋をソッと母親の買い物籠に
忍ばせた時、私の口の中に(最後の晩餐)が広がった。
それから、5日後の給食の時間だった。
その日は給食室の機械の入れ替えの為お弁当の日だった。
恵美ちゃんはキャラ弁をみんなに自慢していた…恵美ちゃんのママは料理が上手い、残念ながら私の母親には料理の才能がなかった。
恵美ちゃんは私の弁当を覗きこむと、焦げた卵焼きをバカにした。
イラっとした私は恵美ちゃんの弁当の中にあった玉子焼きを掴むと自分の口に放り込んだ。
スーパーで味わった(最後の晩餐)…出汁がきいた甘い玉子焼きの味がした。
恵美ちゃんが大騒ぎすると、教師が飛んできて、私だけが怒られた。
怒りが収まらなかった私は、恵美ちゃんに
「もうすぐオマエのママ死ぬからな」
とつぶやいてしまった。
「はっ?意味わかんないだけど」
と言って恵美ちゃんはもう知らん顔で弁当を食べている。
午後の授業が終わりに近づいた頃、教頭が教室にやって来た。
担任を廊下に呼び出すと、何か話しをしている。すると今度は担任が恵美ちゃんを廊下に呼んだ。
クラス中が騒めくなか、恵美ちゃんは荷物をまとめて帰っていった。
担任からは恵美ちゃんのお母さんが入院したとだけ説明があった。
結局、恵美ちゃんのママは緊急手術の甲斐なく、その日夜亡くなった。
私は母親に無理やりお通夜に連れて行かれた。
恵美ちゃんは親族席で俯いて座り、自分のつま先を凝視していた。
焼香をしようとすると、急に恵美ちゃんが私のもとに寄ってきた。
「アンタがあんな事言うからママ死んじゃったじゃない。 ママを返してこの死神」
と言うと突然号泣し始めた。
まわりの大人達は、何が起きたのか事態が把握出来ず右往左往していた。
失恋して胸が痛むと言う言葉があるが、(死神…) この言葉を聞いた時、私の心臓は本当に痛みを感じた。
私は(最後の晩餐)の話しは誰にもしないと決めている。もう二度とあの時の痛みを味わいたくないから…
恵美ちゃんとはその後、喧嘩はしなくなった。 というよりお互いを避け、卒業まで会話することが無かった。
いつか恵美ちゃんに
「あの時は本当に申し訳なかった」
と謝罪できる日が来る事を私は願っている。
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