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2 生き埋めですか
「ここが最下層です。この先はマグマが湧いているので、これより下には行けません」
「どうもありがとう。ミア」
よいしょ、という感じで、女賢者アンニカ様の従者のおじさんが絨毯を下ろした。重そうだ。それにしても絨毯なんだから、燃やすだけじゃダメなんだろうか。臭うわけでもないし、こんな地底に放置しなくても、ほかに方法が……
「?」
私が絨毯から顔をあげたとき、なぜか、女賢者アンニカ様と従者のおじさんが慎重な小走りで後ずさりを始めていた。
そして、私と目が合った瞬間。
「!」
なにか投げた。
辺りを照らしていた松明が壊されて、暗闇が広がる。私はすかさず手持ちのランプでふたりを照らした。照らそうとした。
ふたりは走り出していた。
そして、こちらに向かって爆薬を投げた。
「えっ、うそ」
どぉぉぉぉぉぉぉんッ。
ザラザラザラ……
パラパラパラ……
「ごほっ、ゴホッ、んんっ……あ、アンニカ様!?」
見慣れた採掘用の小さな爆薬は、道を開いたりする半面、道を破壊したりもする。そんなわけで、来た道が破壊されて、土と砂利が降ってきて、つまるところ帰り道が塞がれた。
「うそ……どうして……?」
女賢者アンニカ様が、なぜこんな事を。
「……」
絨毯だ。
呪われた絨毯を、封印したいと言っていた。
そのために夜中、鍛冶屋の娘を……炭鉱夫の孫を、たたき起こして、廃坑の案内をさせたのだ。
「……絨毯」
私には、あんな高名な人物に恨まれる理由も、陥れられる価値もない。だったら絨毯しかない。
松明に再び火を灯し、崩れた土壁を都合して設置して、さらにランプを絨毯の脇に置く。
跪いて、絨毯を調べた。
とりあえずグルグル巻きを解かない事には始まらない。狭い坑道は幸い小爆発によって少しだけ広がったので、解いて巻いてを繰り返しながら絨毯の中を調べた。そうしたら、とんでもないものが現れた。
「……うそだ」
勇者ラルフ様の、遺体。
「……っ」
私は力が抜けて、その人の上に倒れかけた。でも耐えた。私のような下々の人間が、冒険を終えて勲章を受けて国の英雄となった勇者ラフル様の体に触れるなんて、とんでもない。
「……」
息を整えながら、凝視。
もう舐め回すというか、穴が空きそうなくらいまじまじと見つめた。
他人の空似ではなくて、本人だろう。
だって、この人を簀巻きにして地中に埋めてやろうと企んだのが、女賢者アンニカ様なのだから。
「そんな……」
とんでもない事に巻き込まれてしまった。
英雄が暗殺されて、それを隠蔽するために、利用された。道案内をさせた上で生き埋めにされたのだ。
国を救った英雄の皆さん。
世界中の憧れの的。
その夢と憧れが、打ち砕かれた。
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