プロローグ

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プロローグ

「名を占ってさしあげましょう」  そんな事を言い、姓名判断のようなものを始めると言う。あれこれ名に関する由来、今後の事をひとしきり言うと金も取らずにその場を去る。こんな事を言ってくるのだから占い師だろうとあまり耳を貸さない人も多いが、口コミで評判を呼び今ではその名占いをする人物を探す人が増えてきた。  特徴は百六十センチメートルほどの女性、目深に帽子をかぶっているので顔はわからない。そして本人は名を名乗らないので誰なのかもわからない。  格好はいつも同じで腰まで丈のある白シャツにスキニーパンツ、抹茶のような色の帽子。肩掛けカバンを持ち、一見すると普通の女性に見える。必ず相手から話し掛けて来て五分と立たずに占いを終わらせ立ち去るのだという。  特徴があまりない話がまるで都市伝説のようにも思えて、実在しないのではないかという人もいる。  ここまで有名になったのは、彼女に占ってもらってからというもの物事が上手くいくという人が多いからだ。ほんの些細な事が多いが、人によっては突然昇進したとか上手くいっていなかった人間関係が突然良くなったなど、何の努力もしていないのに普段はない良いことが起こるというものだった。 「でも、どうしてもまた会いたいんです。どうしてなのか……私知りたいんです」  探偵事務所にやってきたのは二十代半ばの女性だった。今巷ではこの占い師の噂で持ちきりで、彼女を探す女性が増えているとか。不特定多数の人に発信できるアプリもあるのでローラー作戦のような事が何度も行われたらしいが、いまだに有力な手がかりはない。しかも探そうとしていた時は絶対に見つからず、思い出した時にポツポツと占いをしてもらったという報告が上がる。  依頼人の女性は一度会ったという。その時はまだその女性の事を知らず、ヒマだったので好きにさせていたのだが彼女は他の人の時とは明らかに違う事を言ってきたというのだ。  名を聞くでもなく、突然声をかけられ名前を言い当てた。何故わかったのかと聞いてもこちらの問いには答えずふらっと立ち去ってしまい、呆然とそれを見送ってしまった。  後に彼女の噂を知り、何故自分の名前を占ってくれなかったのか。何故言い当てただけだったのかというのが気になって仕方ないというのだ。
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