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名前占い師
依頼人は今仕事が上手くいかず、彼女にアドバイスをもらえれば何かが変わるのではないかと期待しているようだ。そんなものに頼っているヒマがあったらスキルアップを頑張るか、周囲に協力をしてもらう方が早いと思うがこちらもそれが商売だ。詳しい話を聞いておくことにした。
依頼人の名前は「真玖」という。確かに変わった名前ではある。だからこそ占い師は何故名前がわかって占わなかったのかは確かにおかしな点だ。
依頼人との打ち合わせが終わり帰る依頼人をドアまで見送ると、中嶋はソファにドカっと座りため息をついた。
「商売やってる俺が言う事でもねえけど、そんなもんによく金払うよなあ。独身女の金の使い道ってどうなってんだ」
『仕方ないですよ、他の人がどれだけ頑張っても見つけ出せないし……それに女の人って、他の人と自分だけ違うことに不安を感じるんだと思いますよ』
「あー、なんかやたら同じモン好むよな服とか趣味とか。何が楽しいんだか。まあいいや、その占い師の記憶見せてくれるか」
『はあい』
中嶋に憑依をし、依頼人の記憶にあった女性の姿を見せる。大方話にあったとおりの姿で、確かに顔は見えない。つばの広いキャスケットを深くかぶっており、ファッションというよりも完全に顔を見せない為のように思える。
突然後ろから声をかけられ、貴方の名前は「まく」かと聞いてくる。そうだと答えると黙り込み、そのまま何も言わずに立ち去っていった。信号が変わったこともあり大量の人が流れていく。その流れにあっというまに見えなくなってしまった。
「常に同じ格好してるっていうが、服装変えられたらわからんなこりゃ。声からすると若そうだな、手とか首にも染みも皺もないから中年じゃない、十代から三十代ってとこか」
『ふえ~、そんな事までわかるんですか。ところで、何でこの人は占ってもらえなかったんでしょう?』
一華が素朴な疑問を口にすると、中嶋はパソコンをたちあげて漢字を検索する。出てきたのは名前に使うのは避けた方がいい漢字一覧が載っている。
「検索一発で引っかかるけど、名前に相応しくない漢字っていうのはある。意外かもしれないが”真”って言う字はあんまりよくない」
『え、そうなんですか? よく見ますよ名前で真って使ってる人』
「そう、結構広く使われるしその辺はあんま気にしなくてもいいとは思う。使った方がいい漢字にも載ってるからな、どっちだよって思うだろ。この占い師は良くない漢字だから教えなかった……なら、最初から声かけなきゃいい。確認したって事は確証がなかったからか。何だろうな、何か想定外のことでもあったんだろう」
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