69人が本棚に入れています
本棚に追加
「累」
しばらくそこにいたが収穫なしとしてその日は諦めた。しかし、歩き出そうとした時なんとなく違和感を覚えた。人がたくさんいるのでごちゃごちゃしすぎていて集中できないが、通行人とは違うまったくの異質のものがいるという違和感。たいていこういう気配は霊なので無視するのだが、霊とも違うなんともいえない気配に困惑する。ただ今言える事は、決して振り返ったり関わろうとしてはいけないという事だけだ。
何事もないかのようにその場を歩き出すと、ぽつりと小さく聞こえた呟き。
【今日も来ないか……】
若い女性の声だ。その声は聞き覚えがある。一華に見せてもらった記憶の、今探している、占い師の声。
一瞬迷ったがそのまま歩き続ける。今ここで会話を持ちかけるのは良くない気がした。まして、今のセリフから察するに彼女はずっとそこにいたのだ。しかし自分も同じようにずっといたがまったく気づかなかった。いや、気づかなかったのではなく確かにいなかった。
(他人の名前を言い当てる時点で普通じゃないとは思ったが、ここまで普通じゃないとなると……ちょっとやり方を変えないとな)
そのままその場所を立ち去り、なんとなく喉が渇いたのでファストフード店で飲み物を注文する。二階と三階がイートインになっているので二階窓際の席に座ってコーヒーを飲んでいるとふと隣に座っている女子高生に目が止まった。彼女はスマホを見るでも置いてある軽食を飲食するでもない、なくただひたすら下の風景を見つめている。細かく首が動いているのを見ると人の動きを見ているようだ。
誰かを探しているのか、チェックしているのか。特に気にせずコーヒーを飲んでいると、ふと彼女は一息ついたように残っていた飲み物を飲み始める。そして何気なくなのだろうが、中嶋をチラリと見た途端ゴブっと飲んでいた物をむせて吐き出した。
「ゲホ、ゲホッ」
「……人のツラ見て吐くんじゃねえよ、失礼な」
最初のコメントを投稿しよう!