「累」

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 言いながらも一応ペーパーを取ってやると顔を真っ赤にしてゴシゴシとこぼしたところを拭き、すみませんと小さく呟いた。知るか、とでも返されるかと思っていたが意外にまともな謝罪が来たので中嶋はへえ、と思った。珍しく礼儀正しい子供だったようだ。大きなスポーツバッグを持っているし髪形はショート、日焼けもしているのでスポーツの部活をやっているのだろうとわかる。勝負事の世界であるスポーツをしているのなら決して気が弱いというわけではないだろう。  そんなリアクションをされたのはなんとなくわかった。この店からは先ほどの位置がよく見える。この子がいつからいたのか知らないが、ずっといたとしたらその場所にボケっと長時間いた男が自分の隣に移動していたのだから驚いたのだろう。 「疲れたから休憩にここに来たんだよ、あそこにいるの飽きたから」 「!? き、気がついて……」  彼女はとても動揺したようだった。無論気づいてなどいないが、先ほども良いリアクションをしたのでなんとなく反応が見たくて言ってみた。案の定わたわたと手が無意味なアクションを起こし、その拍子に飲み物を倒してしまう。フタなどついていないのでトレーの中でザバっとひっくり返った。 「ああああ! まだほとんど飲んでないのに……」  ガックリと頭を落として落ち込む。その様子に冷静を保った顔をしつつも内心大爆笑だった。コントか漫画かよ、と突っ込む。二百円程度だが、学生にはされど二百円かもしれない。 「ハニーフレーバーか? ひっくり返すような原因作った詫びにそれくらいなら買ってくる」 「え、なんでこれがハニーってわかったの? 同じ色のメニューたくさんあるのに」 「そんなクソ甘い匂いハニーフレーバーしかないだろ。この店のメニューからしても十代女子が飲むのはハニーかキャラメルマキシ、ホイップドリップ。残り二つはミルク入れるから明らかに色が違う」 「はあ~……」  目を真ん丸くして驚く様子を見るに、この子は純粋なのだろうとわかる。先ほどのリアクションでも飲み物をこぼしても舌打ちや悪態をつくでもない。  彼女は飲み物を買う事には断りをいれ、ボソボソと説明をし始める。 「えーっと、別に貴方を見てたんじゃなくて……その、探してる人がいたから。ここからなら良く見えるし」 「名前占いの女か」 「ええ!? なんでそれまで!?」
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