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本当に驚いた様子で声をあげるが、中嶋は無言のままテーブルに置いてあったスマホを指差した。彼女もそれを見ると、先ほど飲み物をひっくり返した途端に触ってしまったのだろう。画面が映り名前占いの女性についての記事が大きく表示されていた。
「あ……」
「俺も探してるクチ。別に街でぼーっとするのが趣味の自宅警備員とかじゃないからな」
一応そこは弁明しておく。別になんて思われても構わないのだが、SNSなどで何をするでもなくたたずむ男だの仕事ないのかな、など呟かれても困る。
「え、貴方も探してたんだ」
「頼まれてな」
当たり前だが職業などは言わない。業界の鉄則だからというのもあるが、ますます怪しまれる。噂を集めていてわかったのは、名前占い師を探しているのは主に女性だ。女友達から探すのを頼まれた男、とでも勝手に勘違いしてくれればいい。
「どれくらい張りこみしてんだ」
「ここには二時間前から。もう一週間くらいいろんな場所探してるけど見つからない」
自分よりもずっとここにいた彼女が見つけていないのだから、やはりあの女の姿は誰にも見えていないようだ。存在感がないとかそういう話ではない。
占いをする時以外違う服を着ている可能性もあるが、身長が同じくらいの女などは注意してみていた。それにあの時感じた違和感からはもっと違う嫌な予感がする。気づけたはずなのに気づけなかったような後味の悪さだった。
「部活あるんじゃ暇でもないだろうに、何でそんなに見つけたいんだ」
何気なく疑問を口にすると、一瞬彼女は言うのを躊躇ったようだがすぐにスマホを手にとって何かを検索し始める。そして目の前にかざして見せた。
「これ、何て読む?」
見せられたのは「累」とう漢字だった。それを見て一瞬で閃いた。名前占い師を探していて、この漢字を持ち出したということはこれが彼女の名前だろう。ということは、読み方はルイではない。
「かさね、だな」
「……」
中嶋の一言に今度こそ完全に言葉が出ない様子だ。ポカンとして口が開いている。
「アホ面になってるぞ」
言われて慌てて顔を逸らし、わざとらしく咳払いをする。しかしすぐに真顔になると下の様子を見下ろした。
「名前占い師探してるって言ったからわかったんだ……凄いね。普通ルイとしか読まないよ」
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