「累」

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 少し寂しそうに笑った彼女は残っていたポテトを食べると、じゃあと言って店を出て行った。チラリと外を見たが占い師がいたというわけではなさそうだ。初対面の男にあまり詳しく話すつもりがなかったのだろう。名前からすれば真剣に占い師を探しているのだろうと分かる。 『何でですか?』  事務所に戻った中嶋は戻ってきた一華に先ほどの話をするときょとんとした様子で聞いてきた。 「累ヶ淵(かさねがふち)って聞いたことないか」 『まったく』 「関東発祥の怪談話だ」  累と書いてかさねと読むのは累ヶ淵という怪談話に出てくる女の名前だ。顔が醜いという理由で親に殺された助という子供がいた。次に生まれてきた累という子供が助にあまりに似ていたので周囲の人は助がかさねて生まれてきたのだと噂をし、累をかさねと呼んだという。結局累も顔が醜いからと夫に殺されてしまい、殺した夫の後妻にとりついて供養を求めるというものだ。 「かさね、っていう言葉自体は響きも綺麗で悪くない。奥の細道で芭蕉が美しい名前だと花に例えてる事もある。問題なのは、わざわざ累って漢字を使ってるところだな。どんな事情があるにしても本人は良い思いはしないだろう」 『そりゃ怪談話の幽霊の名前ですからね。顔が醜いって言われてたし化けて出たならなおさら。でも、話聞く限りこのかさねって幽霊何も悪いことしてないですよね? とりついても供養求めてるだけだし』 「怪談話ってのは死んだ奴にだいたい非はない。でも化けて出て復讐したり恐ろしい存在として描かれて結局はバケモノとしてしか見られない。そんなもんと同じ名前じゃ嫌に決まってる」  一華に説明しながらネット上で占い師の情報がないか探していた中嶋はふと累の言葉が頭をよぎる。 【一週間探しているけど見つからない】  確か依頼人が占い師に声をかけられたのも一週間前だ。依頼人の女性も自力で探していた。しかし何度探しても同じ場所に行っても見つからないと言っていた。占い師を探しても見つからないのは噂にあるが、占い師の方が依頼人の女性を見つけれられないのはおかしい。何度もあの場所には足を運んでいるはずなのだ。占い師の呟きに「今日も来ない」とあったので、この二人同じ場所にいたはずなのに遭遇していない。
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