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「僕はそろそろ行くよ。君仕事中だし、そろそろ一華ちゃんも戻ってくるだろうから。僕もまだやる事あるからね」
「この話どうすんだよ、一華に憑依されたら一発でばれるぞ」
「またまた。本当は君の存在の方が上位で記憶を渡さない事できるのわかってるくせに。噓や隠し事をしたくないからいつもオープンにしてるだけでしょ。本当、そういう優しいところ昔から変わらないよね」
言うだけ言うと佐藤は軽く手を振って店を出た。中嶋も外に出ると佐藤の姿はもうどこにも見えない。移動は早いし見つけようとしても見つからない、相変わらずUMAのような奴だなとふう、と小さく息を吐くと一華が戻ってくる。
『ただいまー。なんか飲み会に奥さんが突撃してきて修羅場になったので戻ってきました』
「人に依頼しておいてなんで自分で行動するかな、台無しじゃねえか俺らの業務。自分で行動したらペナルティ料金取るって説明したろうがよ」
『あはは、まあいいじゃないですか。仕事は仕事ですし、お金はもらいましょうよ』
いつもと変わりない会話。口ではそんな事を言いながら、内心では先ほどの佐藤との会話が蘇る。
話すのも話さなさいのも中嶋次第だ。一華に仕事を手伝ってもらおうと言ったのは中嶋だからこそ、佐藤は今回の事を教えてくれたのだ。ちゃんと最後まで自分で責任もて、という意味もあるのだろうが中嶋に選択肢を与えてくれた事は正直ありがたい。自分の知らないところでこそこそと事を進められるよりはずっといい。悩み、考える事ができるからだ。
霊に関わらず無視して過ごすのは自分の身を守るために必要な条件だ。これは間違っていないし守らなければ自分の身が危うい。それほど関わらなかった真玖でさえこれだけ振り回されたのだ。
しかしそれでも自分が選んだ事に関してはちゃんと考え、悩みたかった。普段は考える間もなくやり過ごしてしまうからだ。こういう機会はそうない。
一華に真相を話すかどうか?
話すべきではない。そんな事を話したら一華はハルを恨みこの世に未練ができる。瑛と接触できないから苦しむ。中嶋がいつ死ぬのかを待たなければならず、そんな自分に嫌気がさしてしまう。
話すべきではないのだ、普通なら。
「あのな、一華」
『はい?』
「お前が成仏しない理由わかった」
『へーそうですかーって、えええええええええええええええええ!??』
そんな二人の様子をビルの屋上から見ていた佐藤はくすくすと笑った。
「本当、予想の斜め上を行くなあサト君は。これじゃ休んでる暇なんてなさそうだ、早く一華ちゃんの体を捜さないと」
面白そうに、そして穏やかに微笑むと佐藤はビルを後にした。
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