エピローグ

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 一華と小杉の残念そうな声が響いた。中嶋はフム、と腕を組んで考えた後パソコンを立ち上げて携帯会社のホームページを見る。 「スマホに替えろってことだな、これは」 『霊のせいで苦労してきたのはわかりますけど、よくない事が起こる原因の一割くらいはサトちゃんの自爆な気がします』 「うっせ」  確かにあと百年長い。しかし後百年、たぶん本当に自分が息を引き取るまでこんな感じで過ごすのではないかと思う。生きている人間と違って霊体は時間も距離も関係ないから縁が切れることはない。そういえばどうしてるかな、なんて思ったら一瞬で会いに行けるのだ。住所も電話も必要ない、意思一つだけで。  子供の頃は考えもしなかった幽霊と共に過ごす生活。何か変わったとすれば幽霊のほうではなく自分自身の考え方と受け止め方だろう。年を重ね物事を受け止める柔軟さができたのだ。それが常に良い方向に進むわけではないのはわかっている。  ずっと一華と一緒にいてますます情が深くなっていった時、万が一彼女が悪霊になったら自分はちゃんと対処できるだろうか。類魂以上の深いつながりがある相手を見捨てる事はできるだろうか。  たぶん、できると思う。ただし絶望的に後悔する。こういう選択をしなければその心配もないのに、そうなるかもしれない道を選んだ。  同情? 欠片ばかりにあった不遇者への思いやり? 悲しくはなったがそれなら清秋たちに任せたはずだ、おそらく違う。 『あ、そういえば今更ですけど。前から思ってたんですが、何でサトちゃんは私を助手にしてくれたんですか? 幽霊に関わらない生活してたみたいなのに』 「あ? そりゃお前、あの時やたら仕事が舞い込んで寝るヒマないくらい大変だったから、いりゃ便利かと思って」 「『それだけ!?』」  小杉と一華の盛大なつっこみがかぶった。 「珍しく優しいと思った私が馬鹿でした。そうですよね、サトさんそういう人ですよね」 『えええええ!? ちょっと! 成仏を手伝ってあげたかったとか可哀想だからとかそういうのないんですか!?』 「ないよ一華ちゃん、この人はそういうのないの。私がここに入った時も第一声今でも覚えてるけど、何て言ったと思う?“辛気臭ぇヤツだけど本当に使えんのコイツ”だったよ」 『サイテー! 女の子には優しく!』 「うるせえ、世の中男女平等だ。だいたい一華だって自分が幽霊だってわかってなんて言ったか覚えてるか、タダで映画見れるんですねだぞ。アホか」 『だって姿見えないならやってみたいじゃないですか!』  おそらく。話してみて退屈しなさそうだな、と思ったからだ。  そしてこれもおそらくだが、自分が寿命を迎えるまでおよそ百年近くはこんな感じで過ごすのではないだろうか。息を引き取るその時も、引き取った後も。そんな事を思いながら一華たちの愚痴を聞き流しスマホを調べ始めるのだった。 ・真名・END 幽霊と探偵 to be continued &next is last episode
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