変身!いざ、ハロウィンパーティーへ

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変身!いざ、ハロウィンパーティーへ

 僕は妖精マチルダの魔法によって、エミちゃんの通う大学の講堂前に現れた。 「いいわね坊や、人間の姿でいられるのは十時三十分までよーー。がんばって」マチルダは僕に言い残すと消えてしまった。  僕は階段を駆け上がると中に入った。ポップな音楽とミラーボールが回る中で、大学生たちはのりのりで踊っている。僕は学生の間を、ネコのような機敏な動作ですり抜けながら、エミちゃんの姿を探した。キラキラと光る水色のドレスはすぐに見つかった。女友達に囲まれ、エミちゃんは楽しそうに笑っている。うまい具合に中央に空間ができていた。五、六組のペアが手を取り合って踊っている。ライバルが申し込む前に行かなきゃ。エミちゃんに近づくと、「あの……、僕と踊ってもらえませんか?」おずおずと申し出た。  エミちゃんは少し驚いてから、恥ずかしそうに頷いた。 “彼、誰かしら?” ”あんなアイドル顔、うちの大学にいた?”  エミちゃんの手を取り、猫足の柔らかなステップで踊っていると、学生たちの間からひそひそ話が聞こえてきた。 「あの……、すごく注目を浴びているんですけど、初めましてですよね?でも、なんだか初めて会った気がしないの。私、川合エミと申します。あなたのお名前は?」 「僕の名前は凛太朗ーー」 「まぁ偶然……、なんというか、うちのネコと同じ名前です」 「偶然なんかじゃないと思う……」  僕の言葉にエミちゃんは不思議そうな顔をした。音楽は終わり、ほどなくして学園クイーンとキングを決めるアナウンスが入った。やはりアズリンの予想通り、エミちゃんと湊先輩の名前が呼ばれた。キラキラ光るティアラをつけたエミちゃんは輝くように綺麗だった。隣にいる湊先輩は余裕の笑みだ。積極的に腕を組んで、会場の歓声に手を振って応えた。  エミちゃんは僕のエミちゃんだ。耐えられなくなった僕は人混みをかきわけ、壇上に駆け上がると、いきなりエミちゃんの手を掴んだ。学生たちのどよめきの中を強引に引っ張った。 「おい、君!」湊先輩が声を挙げるも、大歓声と口笛にかき消された。  僕はエミちゃんを連れて壇上を降りると、学生たちの間をすり抜け、講堂を出た。人けのない場所までくると僕はようやく振り返った。エミちゃんは怒っているかと思いきや、意外にもにこにこと笑っている。 「凛太朗さんってば凄い。まるで映画のワンシーンみたいです」 「これは物語じゃない。だって、僕は、あなたが拾ってきたネコの凛太朗なんですから」  エミちゃんに包み隠さず本当のことを話す。そして最後に「好きです」と自分の想いを告げた。 「まさか……うちの凛太朗? まさか、冗談ですよね?」 「疑うのは当然だ。でも、雨で濡れた捨てネコの僕を抱き上げてくれたでしょう? それに爆竹に驚いて、アパートから転落して、ボスネコに追いかけられた僕を助けた」  信じられないという顔をしながらも、エミちゃんはなんとか自分に折り合いをつけようとしているようにみえた。 「本当に凛太朗?」 「はい」 「どうやって人間に? そんなこといいか、私、凛太朗がネコっぽくないって、ずっと思っていて……、でも、それもいいわ。私も好きです。凛太朗さんのこと……」  エミちゃんの言葉に、僕の心が飛び跳ねた。この瞬間エミちゃんと両想いになれたのだ。いつも抱かれてばかりの僕は初めて愛しい人を抱き寄せた。人間の男のとしてキスもしたい。エミちゃんの両肩を掴み、顔を寄せた。柔らかなピンク色の唇がふれる。すると、どこからともなく鐘が鳴った。次の瞬間、僕はどろんとネコに戻っていた。 「凛太朗??」  呆気にとられるエミちゃんの腕の中で僕は情けない声で鳴いた。そこに、慌てた様子の湊先輩が駆け付けた。 「ここにいたのか。俺のプリンセスを連れ出すとは、なんて不敬な野郎だ。それで、あいつはどこへいった?」  湊先輩は人間の凛太朗を探す。 「先輩ってば、俺のだなんて」 「ごめん、つい、先走った。けど、これは本当の気持ちだ。企業から内定もらったら、正式に申し込もうって決めていたんだ。でも、今夜の君の姿をみて、予想以上にライバルが多いことが判った。だから、将来、君を必ず幸せにするから、だから結婚前提で僕とつき合ってください」 「まぁ、なんて夜なのかしら。いっぺんに一人と一匹人から告白されるだなんて」エミちゃんは呟いた。  エミちゃんは僕のエミちゃんだ。僕は威嚇するように喉を鳴らした。 「シー、凛太朗。ダメよ」 「先輩。先輩の気持ちは嬉しいのですが、私、凛太朗が好きなの。だから、先輩とはお付き合いできません」 「凛太朗? 」 「はい。私、この雄ネコに夢中なんです。だから先輩、ごめんなさい」 「ええっ? マジ? 俺、ネコに負けたのか」 「ただのネコじゃないわ」エミちゃんは僕を抱き上げると踵を返した。「ひと目見て、こんな綺麗なネコちゃんいるのかしらって思ったの。王子様の凛太朗、かっこよかったよ。そして、確かに、ついさっきまで人間の男の子だった。私と一緒に人間になれる方法を探しましょう」  学園の時計が十一時の鐘を鳴らす。  エミちゃんの目に涙が光った。僕はその頬にある雫をぺろりと舐める。しょっぱくて、でも、とびきり甘い涙だった。あと何缶食べたら、もう一度、あの特典ネコのマチルダを召喚できるのだろうか?  エミちゃんに抱かれながら、僕はそんなことを考えていた。      (おわり)  
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