第0章 中立配達所第六地区

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第0章 中立配達所第六地区

 佐川大和(さがわ やまと)は大きなホワイトボードの前に座っていた。目の前には教卓があり、その後ろで女性がペンでホワイトボードに文字を書いている。  彼女の名前は櫻井(さくらい)。中立配達所本部で秘書業務を行う、スーツと眼鏡がよく似合う女性。彼女は今日、大和にこの国全体の仕組みについて説いていた。  この国は三十年前に壁によって八つの地区に分断されている。そのためまだ十代後半の大和は他地区の存在を知らない。しかしそれでは中立配達所の人間としてあまりにも不便なのだ。  何故なら中立配達所とは、中央に存在する第ゼロ番地区に建物を構え、各々の地区から集めた物資を各地区に振り分ける、いわば物流の役割を担っているから。そして大和は先日、その配達員として新しく採用されたのだ。  中立配達所に入る条件は二つ。自身の身の安全を守るため能力を所持していること。そしてもう一つは支部長、もしくは本部長の推薦があること。 「地区を分ける際、非能力者である国民も個人の技能や特徴にあった地区に振り分けられました。つまり、第三地区で言うと商売に向いた人間が第三地区に移転させられたと言うことです。馴染みのある言葉で言うと、商売人気質の方です。」  櫻井の説明に大和は頭を掻きながら必死にノートを取る。初めて配達する地区は第三地区であると知らされていただけに懸命に覚えようとするが、彼は勉強が得意ではなかった。  能力者は一般人に紛れて生活をしている。そのため各地区で能力を持つ者のパーセンテージが異なり、多いところで20%に到達する地区もあるが、最少は第六地区の2%。金で全てが治るとされる『商人の地区』で14%。  第三地区の支部長である有原利仁(ありはら りひと)も当然能力をもっている。
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