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結局、俺たちは一日ダラダラと、パジャマを着替えもせず顔も洗わず、いっしょに過ごした。幸か不幸か、キス以上の色っぽい展開にはならなかったが、かなりいちゃいちゃしながら過ごしたことは確かだ。
昼過ぎにうたたねをして、夕方に目を覚ました気だるい時間、俺はラジオ番組を聴いていた。スマホでラジオが聴けるアプリを使っている。中学生の頃から断続的に聴いている深夜の音楽番組。パーソナリティーは「機長」と呼ばれ、ちょっと旅気分も味わえるのが俺は好きだった。歴代機長の低音ボイスとともにイージーリスニングの穏やかな音楽を聴かせてくれる。いつもの習慣でワイヤレスイヤホンを耳に入れて、ベッドの上にだらしなく寝転がりながら聴いていたら、自分の布団で眠っていたはずのしろほしがひょこっと顔を出した。「何してるの、俺もやる」という顔をしてベッドに上がってくる。
「しろほしも聴く?」
俺の隣にべたっと身体をつけて座ったしろほしに、ワイヤレスイヤホンの片方を貸してやった。耳に入れてやる。くすぐったがって首をすくめたが、イヤホンから音が聴こえてくることに気づいてスッと真顔になった。「何か聴こえる!」と、俺の顔を見る。
そのまま俺たちは身体を寄せ合って、静かな音楽と当代機長の低音ボイスに耳を傾けた。ワイヤレスイヤホンなんだから、こんなにぴったり寄り添ってなくてもいいと気づいて可笑しくなる。
いま流れているのは「引き潮」。ムード音楽のスタンダード・ナンバーだ。昔もこの番組で聴いたなあ。甘すぎるほどロマンチックな曲だけど、俺は好きだ。しろほしは、俺に寄りかかりながらウトウトしている。
窓の外はすでに夕闇が広がっている。もう、このまま風呂にも入らず寝ちゃおうかなあ、しろほしを抱いて。俺はぼんやりと考えていた。
――Day8:「金木犀」につづく
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