11月8日(月)ー Day8:金木犀

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11月8日(月)ー Day8:金木犀

 月曜の朝、あるいは休日明けの朝は、誰しも、多少なりとも憂鬱なものだと思うが、この日はとりわけ朝から上手くいかないことの連続だった。  まず、朝起きると、髪の毛にいやな感じの寝ぐせがついていた。  俺には、つむじがふたつある。たまにこうして変な寝ぐせがついてしまうと収拾がつかなくなる。自意識の肥大した思春期は人生やめたくなるほどのコンプレックスだった。今だって、昔ほどではないが、寝ぐせがついてしまうとそれなりにへこむ。湿らせてドライヤーを当てたぐらいでは直らず(シャワーを浴びなおす時間はない)、ヘアワックスをつけすぎてベタついてしまったのも地味にストレスだ。  それに、目が覚めたらしろほしがいなかった。たぶん朝の散歩(パトロール)に出ているのだろう。玄関には合い鍵も靴もなかった。俺が出勤するまでには戻ってくるだろうと思っていたら戻ってこない。不安とイライラに気をもみ、これ以上待っていたら遅刻するという時間まで待ってしびれを切らし、急いで玄関で靴を履いていたら、のんびりとしろほしが帰ってきた。 「おう、いってらっしゃい(なんだよ、会社に行くのかよ……)」というかわいくスネた顔をされて、ちょっとだけと思って抱きしめて軽くキスなどして、後ろ髪をひかれていたら、いつもの電車を逃した。そして会社まで走るはめになった。  走ったことでさらに残念なヘアスタイルになった俺を見た広報部の後輩女子からは、朝一番、開口一番に「天草主任、今日は寝坊したんですか?」とか言われた。頼む、今日は俺のメンタルを削らないでくれ。  勤務中も、たいした面倒ではないにせよ、ちょっとした仕事の締切を忘れていたことを相手先に指摘されてしまったり、メールに添付したファイルのパスワードを間違えて設定したり、急ぎで相手に送りたいPDFの書類がフリーズして待たせてしまい、謝りの電話を入れたり。  そうこうしているうちに昼飯を食いそびれたり、午後からの会議資料が修正前のバージョンだったことに、しゃべり始めてから気づいたり、この日までにもらわなければならない、他部署からのフィードバックがこなくて待たされたり。……まあ、そんなわけでとにかく「一日ずっとなんだかうまくいかなくて残念な日」だったわけだ。
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