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…鳶色の瞳。
二重目蓋の下から覗き見える瞳はきらきらと輝き、一目見たその時からその眸に惹きつけられた記憶が脳裏に甦り、言葉を失う。
透明な光を湛えるその瞳に吸い込まれるような心持ちに陥りながら見つめ返していると、その双眸が弓なりに緩み、
「オレたち」
と言った口元が笑みを刻んだことで大きく歪むのを見た瞬間、見覚えのある笑い方に気が逸れ、夢から覚めたかのように頭の芯が冷めて行く。
(コイツ)
また何かする気だ、と保険医・矢口が思っていると、雑誌を手に勢いをつけてチェアから痩身を剥がし起こした少年・辻村颯太は、笑顔のままぐぐっと矢口の方へ身を寄せると、
「いつになっなら、オレたちってこーいうコトになるのかな」
と言って、開いていた雑誌のページを矢口の眼前に突きつけた。
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