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…突き放しても、突き放しても。
一向に『その気』も見せず、くどいばかりに約束ごとを増やし続けた矢口に対し、静かなる布石を敷き詰めていたのだ、颯太は。
それだけ、矢口のことが好きだった。
そんなことをするほど…本気だったのだ、颯太は。
(煮え切りもしないで、逃げ腰だったのは…おれ、か)
きっと颯太は、そんな矢口の本質をずばり見抜いていたに違いない。
だからこそ、この日だけ、この日に全てを賭ける、というその一点に挑んだからこそ、矢口を追い詰めることができたのだろう。
「──…参った」
子供子供と、颯太を侮っていた自分の敗けを素直に認めた矢口が額に手を当てそう言葉を零すと、抱きついていたその腕に頬を擦り寄せた颯太は、満足げな笑い声を立てた。
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