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明日のバナナ
「先生ー、どこにいるんですかぁー?」
スマホの向こうで、竹仲君が叫ぶ。受賞してから、少年誌の連載を3本抱える売れっ子になったけど、締切を破ったことは1度もない。それでも、連載作品が結末を迎える直前になると、行方をくらます癖がついてしまった。
「大丈夫、いつものように原稿は」
「それは分かってますけどぉー」
声に悲痛な気配はない。だったら、なにをわざわざ電話してきたんだ。
「お荷物が届いているんですよ!」
「なにそれ。珍しいこと?」
「バナナですよっ、バ・ナ・ナっ。『明日のバナナ』って、ヘンな名前の」
「えっ、俺、お取り寄せ頼んだっけ?」
懐かしい名前。あの後、受賞でバタバタしていて、すっかり忘れていた。
「知りませんよう、僕」
「それで、どこの誰から送って来たの?」
「えっと、『らくらく農園』の……黒須哲也って書いてます」
スマホを握る手が震える。目の前に広がる草原から、青臭い風が吹いた。
「センセ、聞いてます? 食べちゃいますよ、僕らで」
「竹仲君。すぐ帰るから、食べちゃダメだっ!」
俺は、慌ててレンタカーに引き返した。
【了】
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