人工の翼

1/4
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ
 佐藤は、晩秋の枯葉を踏みながら、大学構内を散策してた。彼は○○大学文学部の三回生で、平日は暇を持て余して、このようにキャンパス内を漫然とした思考と伴に歩くのが常だった。  彼は将来への焦燥に駆られた級友を横目に、只、文学上の問題についてのみ関心を抱いていた。こう言った彼の一人暮らしの本棚には、当然の如く小説ばかりが背表紙を並べていた。中でも、芥川、太宰、漱石、鴎外は彼の愛読書らしく、本の角は丸まっている。  本棚は、その所有者の脳そのものである、というアフォリズムめいた言葉が在るが、蓋し彼もその通りらしく、佐藤の価値感には、明治・大正の気風が漂っていた。その為、彼の所属する文藝サークルでも、彼ほど古風な文体の者はいなかった。  彼の作品の大抵は、接続詞が古風であり、論理の展開も古典的であった。が、彼はこのことに触れられると、途端に理路整然性を失い、子供じみた反駁をするばかりである。彼は、彼の敬愛する文豪たちが、新時代の気鋭を作品に入れ込んでいたことも忘れたらしく、古典にこそ真の文学が存在してるという様に思っていた。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!