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美月へ    君は知っているだろうか、、  君に会えなくなっても僕の心の片隅には君が眠っている。  僕の脳裏には今もあの頃の君が笑っている。 もう君に会えなくなって10年が経ったね。 お互い別々の道を歩んだけど僕たちは精一杯歩んだ。そう、青春の全てを燃やしてー  涼介は書棚の一番下に眠る本を手に取りその本の172ページを開いた。栞が挟まれたそのページには物語のラストが綴られていた。  美月、僕たちはあの頃、そのどれもが輝いていたー もし、あの頃の君に伝えられるなら心からの言葉を君に贈るよ。「ありがとう。」って。  涼介はそっと本を閉じた。 そして、本棚の一番下にあるアルバムの埃を手で払うと本と一緒に大切にしまった。 また、この本はこの本棚の中で何年も眠るのだろう。涼介はそう思った。 「トントン」 「あなた、コーヒーを持ってきましたよ」 「ありがとう。そこに置いといて」 涼介は詩織の方を見て笑顔を見せた。 「あまり、根を詰めてお仕事頑張るとお身体に障りますよ。早く寝てくださいね。」そう言い残すと妻の詩織は書斎の机の上にコーヒーを置いて静かにドアを閉めた。 涼介はコーヒーを啜ってタバコに火をつけた。 立ち昇る煙の中で遠い遠い昔の記憶を思い返していたー 14年前ー2008年ー  「涼ちゃん! 早く。早く!」 「ハンバーグ定食売り切れちゃうよ!」 「待てよ! 美月。そんなに急がなくても、、」 ーハンバーグ定食完売ー 「あ、、」 美月と涼介は目を合わせて落胆した。 「くそっ! 古文の教授の話が長いから間に合わなかった、、」 時刻は12:30分を指していた。 「あ〜あ。」 「仕方ないよ、、涼ちゃん見て。見て!」 「オムライスも美味しそうだよ。」 二人はオムライスを注文するとトレーを持って列に並んだ。 「急いで食べないと次の授業間に合わないよ!」 「あーあ、これだから古文の西岡嫌なんだよなぁ、、」 不満気な涼介をよそに美月は美味しそうに食べていた。  「涼ちゃん、就活進んでる?」 「ぜーんぜん。何社か受けたけど全部ダメだった」涼介は視線を落とした。   「美月はどうなの?」 「私も全然だめ、、」 「出版社とか雑誌の編集者とか応募してみたけど全部ダメだった、、」  「この先、どうしよう、、」  美月は不安気な表情を見せた。 「大丈夫! 大丈夫! いざとなったら美月一人くらい俺がなんとかするから」   「何それ? プロポーズ?」 美月はクスクスと笑った。   「俺、東京に行こうと思ってるんだ、、」  「え?」 美月は目を丸くして涼介の顔を覗き込んだ。 「とりあえずって言うか出版社とかで働きたいなら東京に行った方が早いかなって、、」 「私は反対だよ、、」 美月は押し黙った。 「何だよ。応援してくれると思ったのに、、」 涼介も意気消沈した。    「私は涼ちゃんがここに居てくれるだけでいいんだよ、、」美月は悲し気な表情だった。   「それに、毎日連絡するし、手紙も書くから、、」   「嫌だよ、、」 予想外の美月の反応に涼介は困惑していた。   「ごめん、、でも、もう行くって決めたんだ」   美月はオムライスを半分食べた所で食べるのをやめた。 「私は絶対嫌だからね。」 唖然とする涼介を置いて美月は席を立った。    それから数日が過ぎた。 涼介の携帯が鳴った。 携帯の画面には美月からのメッセージが表示されていた。 「涼ちゃん、この前はごめんね。私、大人げなかったね。東京に行くことが涼ちゃんの夢への足掛かりになるのなら私、応援するよ。がんばって! 美月」 「美月、、」 「美月ごめんな、、1年で結果が出なかったら福岡に帰ってくるよ。お互い頑張ろうな」 涼介がメッセージを送るとすぐに美月からの返信が返ってきた。 「私はいつだって涼ちゃんの味方だし、応援団だよ! 美月」涼介は目を細めた。 「美月ありがとう」 美月も涼介も希望する会社に就職出来ず、学生生活最後の秋を迎えていた。  その日、涼介は大学からの「卒業写真撮影のお願い」を見ていた。 『卒業写真撮影のお願い』 日時10/19(日)14:00〜 場所 大学大ホール なお、複数人で写っても構いません。 お誘い合わせの上、ご参加ください。  涼介は美月に電話をかけた。 「もしもし、涼ちゃん。卒業写真一緒に写ろう!」 美月の声は弾んでいた。 「何で分かったの? ちょうど同じこと言おうとしてた。ははは」 涼介は苦笑いを浮かべたが嬉しかった。 「来週の日曜日だね! 二人で写るの楽しみだね!」美月は嬉しそうに息を弾ませた。 「それじゃ、来週の日曜日に4号棟で待ち合わせね。時間守ってよね」 「はいはい。了解しました」涼介は笑った。 「それじゃ、来週の日曜日ね。楽しみにしてる」そう言うと美月は電話を切った。 ◇◇◇◇ 「ジリリリリリッ!」 涼介は目覚ましを止めて目を覚ました。 「いけねっ。遅れる」 大慌てで準備をして涼介は大学の4号棟へ向かった。 秋風が心地よく澄み切った空気の中、涼介は4号棟へ走った。 「遅いー!」 「ごめん。ごめん。」 「涼ちゃん、寝癖!」 涼介の寝癖を美月は指でといて直した。 「ホールまで急ごう!」 二人で大ホールまで走り、息を切らして中に入った。 「ギリギリセーフ」 「もーう」美月はふくれっつらだった。 「学籍番号251と252番の方〜」 二人は呼ばれ並んで笑顔でシャッターに収まった。 「もうー涼ちゃん来るの遅いから綺麗に写れなかったよ」美月は涼介に言った。 「美人だからどう写っても可愛いの!」 涼介が悪びれると二人で目を合わせて笑った。 帰り道、秋のキャンパスを二人で並んで歩いた。 「ねぇねぇ、涼ちゃん。初めて出会った日のこと覚えてる?」 「もちろん」 「高校の文芸部に入ったら俺とあと一人のオタク男子だけでガッカリしてたら、突然、美月が遅れて入ってきて、私も入ります!」 なんて、言って入って来てくれたんだよなぁ。 「あの時は嬉しかったなぁ、、」 美月はクスクスと笑うと「私も初日の部室に入ったらメガネのオタクの人しか居なくて焦ってたら奥に涼介が座ってて嬉しかった。懐かしいね、、」美月は感慨深そうに話した。  すると、突然美月は足を止めて右手を差し出した。 「東京行っても頑張ってよね! 約束だよ」 涼介もその手を握り返した。 もう一度強く握ると涼介はそっとその手を離して「頑張ってくるな」優しい笑顔を浮かべていた。
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