恋は落ちてはいけないものだった

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彼と出会った頃の私は苦しみから逃げようと、自分の笑顔を探しながら生きていました。 とても風の強い春の日。 流れる雲の間から夕日が暖かく包み、桜がまだ満開じゃなくて良かった。そんな事をぼんやり考えながら、私は大好きな場所に立っていた。 すると、すぐ隣に存在を感じた。 横を見てその存在を確かめようとしたら、目線の先は胸元だった。 顔にかかる髪の毛をかき分け、上を向いて顔を確かめてみた。 何であの時、そんなにも隣の誰かが気になったのかは分からない。周りから目を逸らして生きていたのに。 けれどその時は、その存在がどうしても気になった。 そこにはとても幸せそうに笑う人がいた。 私よりも20cmぐらい背が高く、スラッとした眼鏡の男性。 彼を見る私に、彼は気づかない。 彼が見ていたのはきっと、彼を笑顔にするモノ。それは私も大好きなモノ。 だから私たちはそこにいた。 時間が止まればいい。もうこの先の時間はいらない。この瞬間に閉じこもりたい。 彼を追いかける事も、声を掛ける事もできず、私は彼の姿が見えなくなるまでその姿を目で追う事しかできなかった。 視界からいなくなってしまった彼を恋しいと想う気持ちだけがそこに残った。
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