むこう

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むこう

夢界析の部署は解散。 メンバーはみんな。 記憶界析の部署に移動になった。 予知夢の研究は終わる。 カイチは相変わらず眠っている。 でも。 今日にも目覚めるだろう。 ナナセとサイキが中心となって。 延々と。 穴を塞ぐ縫い目を繕った。 洗い屋に強引に破られた穴は。 相当大きかったらしい。 教授の送検にカイチの記憶縫合と。 徹夜続きだったサイキは。 今日は非番だ。 予知夢について知る人は最低限にすべき。 教授の罪状は防衛省との癒着と。 研究費の不正受給と。 それを隠すための脅迫。 落とし所を見つけるのに。 サイキは苦心していた。 洗い屋はただ一言。 「あたしは知らん」 とだけ言って釈放された。 ついでに機械屋もうまくいじっとくからと。 ナナセに目配せしていた。 今日はイクノが仕切って。 ナナセの記憶の封印をした。 「本当に、よかったんでしょうか」 元はナナセと同僚だった界析官が。 イクノを振り返る。 「予知夢を終わらせるためだから」 螺旋階段は。 校舎ごと取り壊された。 これで予知夢の脅威はなくなる。 2人はお互いを忘れて。 夢界析とは縁のない生活を送る。 「ナナセさん、  今日いいことありました?」 1年後。 定期検診に来たナナセは。 随分顔色が良くなっていた。 初めのうちは記憶の穴が大きすぎて。 抜けた記憶にパニックになったりして。 日常生活もままならなかったが。 最近は落ち着いている。 時短勤務で電子記録界析の仕事もできている。 「いい夢を見ました」 「夢、ですか?」 イクノは寂しさを隠しきれなかった。 「そういう意味じゃないから!  自分の意思で記憶は封印したんだし。  別に現実つらくないよ?  今の生活楽しいよ?」 「そうですか…」 イクノはまだ。 納得できない。 「…夢の中で、  ある人が出てくるんだ。  繰り返しみる夢。  多分、  以前知っていた人」 「会いたくならないですか?」 目覚めたカイチは。 ナナセのことは忘れて。 便利屋の仕事を続けている。 「今は会えない気がする」 記憶はなくても。 感覚的に分かることもあるらしい。 「それでいいんだよ。  このままで、  いいの」 いつかは。 夢夜の向こうで。 会える気がするから。 終
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