うたごえ

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宙を見ていた。 スローモーションのように。 自分の身体が鈍くなり。 この先を知るまいと抵抗する。 何かを振り絞って。 目だけ。 見下ろすと。 下で。 人影がうずくまっていた。 もぞもぞと動いている。 よかった。 生きてる。 急に身体が動くようになる。 救急車と警察を呼ばなければ。 顔を引っ込めようとして。 見られていることに気づいた。 通りから。 覗き込んでいる。 男2人だ。 「誰?こいつの仲間?」 下を指さす。 「捜査員だ」 身分証をこちらに向けてくる。 正直ここからじゃ見えるわけないけど。 「ちょうどいいや。  その下の、それ空き巣」 言って。 首を傾げた。 なぜ捜査員がこんなところに? ああそうか。 窓を見つけた直後の。 ナナセのあの電話だ。 監視を増やせと言っていた。 この家で何かが起こると知ったからだ。 いや。 何か起こるのが、この家だと知ったからか。 「どうしたの?」 マチさんが上がってきた。 「外に出ててって言ったのに」 「心配でね」 先輩をしっかり抱えている。 「多分空き巣です。  何か盗られたものない?」 机の引き出しなどが開けられている。 「大丈夫。  大事なものは下の金庫の中だから」 「言っちゃダメですよ、そういうの」 庭に入って空き巣を確保した捜査員が。 下から手招きする。 「降りてきてくれ」 「はーい」 一通りの経緯を説明し。 責任者が来るから待ってくれと言われ。 家の前にしゃがんで待っていた。 マチさんは先輩を連れて家に入ってもらった。 捜査員の一人が一緒についている。 もう一人は空き巣を救急車に乗せて。 病院へ向かっていた。 「君か」 その声に。 ガバッと顔を上げた。 「あんたか」 この人が責任者とは。 今日は愛想笑いしない。 捜査員の顔のサイキだった。 「ここで何をしてる?」 「便利屋の仕事ですよ。  猫を病院に連れてった帰りで」 「そうか」 眉を寄せるが納得はしている。 便利屋稼業への不可解か不信というところか。 「今回は、ナナセは関係ないのか」 「ないですよ」 「本当に?」 「…」 言いたくないので黙ったが。 逆に答えてしまったようだった。 「そっちこそ、  ナナセが言って、  あの2人に見張らせてたんじゃないの?」 「この家のことは知らされていたが」 「空き巣の奴の記憶でも読んだ?」 「いや」 そりゃそうだ。 これから犯罪を犯そうとする奴が。 記憶を提出するわけがない。 もっと関係ない人の記憶から。 不審な人影とか車とか。 そういう情報をもとに捜査するんだろう。 「今回の事件の関係者になった以上、  この件で記憶提出はしてもらうよ」 まずいことになった。 そう顔に出たのだろう。 「大丈夫。  ナナセには言わないでおくよ」 「なんで」 「そのかわり、  便利屋でやってる仕事については、  記憶の隅から隅まで読ませてもらう」 「脱税とかしてないからな」 笑われた。 「知りたいのは、  君とナナセが何をしているかだよ」 真顔で言われた。 「そんなん、  俺だって知りたいですよ」 サイキを見返した。 しばらくの間。 何も言わずに睨み合っていた。 「協力しないか」 サイキの方が言った。 「ナナセが君に隠すことについて、  こちらが知りうる限りのことを教えよう。  君も、ナナセがしていることを、  知っていることを全て教えてくれ」 なんでそんなことをする必要がある。 「ナナセは、  内部調査の対象になっている」
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