しらなみ

2/5
7人が本棚に入れています
本棚に追加
/35ページ
1時間に1本しか留まらない駅を降りる。 ホームからすでに目的地が見えている。 海だ。 平日の昼間。 人のいない砂浜と、人のいない波間。 小脇に仕事道具を抱え、そそくさと駅を出て。 一本道の坂を下る。 ストリートビューで見た通りの街並み。 初めて来た土地だ。 地図アプリを使おうと思っていたが、すでに目視で確認できたので、真っ直ぐに目指す。 天気の良い日を狙ってきた。 今日で良いものが撮れそうだ。 自然と足取りが速くなる。 砂浜はあまりに熱い。 パラソルでも持ってくるべきだった。 振り返ると街並みと、坂の途中に駅が見える。 そうそう。 この景色だ。 レジャーシートの上に荷物を下ろす。 道具を広げる。 素早く組み立て、タオルで黒い鞄を覆った。 まだ午前中だと言うのにこの暑さだ。 あまり長くなると水筒の中身だけでは持たないだろうし、精密な仕事道具もイカれかねない。 起動する。 勝手にレンズが回り出す。 よしよし。 サクッと終わってくれ。 借り物の高性能カメラを抱え。 裸足になって。 波間に近づく。 濡れた砂は冷たく心地よい。 青い水の向こうに砂粒の段々模様が透ける。 試しに撮ってみる。 綺麗な画だが。 求めてるのはこう言うのじゃない。 思い切ってカメラを水に沈める。 防水仕様を信じてシャッターを切る。 そうそう。 こういう感じだ。 水の中は澄んでいて。 光が燦々と降り注ぐ。 でも静かすぎる。 少しずつ歩き。 腰の深さまできた。 波が来ると胸まで浸かる。 流石に水は冷ややかだが、頭は焼けるように熱い。 ざぶんと潜る。 ジリジリしていた頭が冴えてくる。 ぶら下げていたゴーグルをつけ、もう一度潜る。 そのまま上を見上げる。 そう。 こんな感じだ。 眩しくて。 よく分からないけれど。 水の中で。 うえをみあげている。 なみに。 からだがながされていく。
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!