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「なぜカイチが出てくる」
サイキの追求に。
「知らねえよ。
俺だってわけわかんねえよ。
ただあいつに頼まれて、
設定を見てみたら、
盗みでも不正でもヤクでもなく、
“カイチ”の存在を隠すプログラムだった。
それだけだ。
持ってきた本人がプログラムに仕込まれて、
政府に隠されてるだと?
あのカイチが?
それが今度は、
サツが追ってる件だなんだって。
あの野郎何をやってんだよ。
俺は生きて帰れんのかよ」
後半の文句は聞き流す。
カイチがコトの中心にいる。
サイキがずっと読んできたナナセの記憶では。
時々仕事を手伝うだけの便利屋だった。
カイチ自身もそう言っている。
でも。
それ以上の何かがある。
ずっと隠されてきた。
「隠していた中身は分かるのか?」
「いいや、これはただの網だ。
カイチっつう概念だけが引っかかる網な」
装置の写真を指す。
「何がかかって、
かかったそれをどうしたかは、
そいつのパソコンを見ないと分からん」
「サイキさん!」
捜査員がドアを開ける。
切迫した顔だ。
「カイチさんがいません!」
ああもう。
イライラする。
頭が痛む。
何をしてるんだ。
「フロアを封鎖しろ!」
カイチは。
鉄格子から出られたは良いものの。
動けずにいた。
エレベーターへ行くまでに。
捜査員に捕まってしまう。
非常階段までも遠い。
人のいない廊下の突き当たりで。
壁に張り付いて考えていた。
「どうしたら良い?」
端末に聞いてみる。
『急いだ方がいい。
向こうの態勢が整ったら逃げられない』
「でも」
『建物から出られさえすれば、
どうにでもなる』
エレベーターを見るのをやめた。
反対の。
窓を見る。
唾を飲む。
7階だ。
7階だぞ。
『時間がないぞ』
「分かってる!」
窓を開けた。
「カイチ!」
サイキの声がした。
振り返る。
「待て!」
追ってくる。
時間がない。
窓の外。
隣のビルがある。
外に非常階段が。
錆びている。
行くしかない。
行くしか。
風が吹く。
身を乗り出す。
「カイチ!」
「いかせてくれ!」
あの。
螺旋階段を。
「もう少しで思い出せそうなんだ!」
ナナセを。
思い出せそうなんだ。
宙へ。
身を。
投げ出した。
赤い手すり。
手で撫ぜると。
パラパラと劣化したペンキが剥がれる。
あの時は。
こんなではなかったっけ。
下ろした髪が。
バサバサと風に舞う。
ナナセは。
雪のちらつく夜に一人。
螺旋階段の上にいた。
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