夢夜

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夢夜

高校2年。 春。 桜まみれで下校する。 生徒たちを見下ろしながら。 教室で。 「帰りたくないなー」 つぶやくと。 「春だしな」 隣にいたのは。 「春関係ある?」 「テンションあがっちゃうよな」 クラス替えで一緒になった男子。 「トダ君」 「カイチでいいよ」 明るく笑う彼は。 誰とでもすぐに仲良くなった。 「ナナセ、  入学式の時主席だったよな。  生徒会とかやってるのかと思ったけど、  違うの?」 「興味ないし」 「忙しいの?  部活もしてないじゃん」 「親の知り合いの家に居候なの。  お金出して通わせてもらってるから、  それなりに勉強しなきゃなのと、  家の手伝いしてる」 「居候とか大変そ」 放課後。 帰っていく生徒たちを見下ろしながら。 「帰んないの?」 「ケンカしてて帰りたくない」 「ケンカって、  居候の人と?」 「そう」 カイチは。 黙って隣に立っている。 「親は2人とも研究者で、  小学生の時に、  学会で行ったアメリカで、  交通事故で死んだの」 ポツリと話した。 「そしたら研究者仲間の一人が、  私を引き取るって言ってくれて、  小さい頃から研究室に出入りしてて、  身内みたいな人だったから、  居候させてもらってるの」 カイチは。 ただ聞いていた。 「ユキカワ先生って、  父親と同年代の教授で、  奥さんは法務省勤めで、  子どもはいないの。  可愛がってくれてるんだけど、  最近先生、  忙しいみたいで、  帰りが遅くて」 窓枠に腰掛ける。 「イライラしてたみたいで、  昨日言い合いになっちゃった」 「大丈夫かよ」 「奥さんが味方してくれて、  気にしないでって言ってくれた。  でも私も言い過ぎたから、  謝らないとと思うんだけどね」 帰りたくない。 「帰らなきゃなんだけど」 帰りたくない。 「いいんじゃない?」 「何が?」 「別に、頑張りすぎなくていい。  君はそのままで、  いいんじゃない?」 そうかな。 「放課後ダラダラ喋ってさ、  家の人とケンカしたーって愚痴ってさ、  帰りたくないなーって時間潰して、  それでいいんじゃない?」 「そうかな」 「そう思うよ」 そうか。   「なんの研究してるの?」 「夢、だって」 それからだ。 頑張りすぎなくていい。 肩の力を抜いて。 好きなようにしていよう。 「今日、  旧校舎でいいところ見つけたんだ。  授業サボるのに最高」 「不良だな」 「いいじゃんか」 カイチの言う通りだ。 頑張ろうとしなくても。 今のままでも。 このままの私でもいいんだ。
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