夢夜

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校庭の桜は散り。 青々とした葉が伸びて。 木漏れ日が落ちる。 「なあ、  また変な夢見た」 「私じゃ分かんないって」 「夢が変なのかな、  現実が変なのかも」 ナナセが言うのも構わず。 カイチも話をやめない。 「さっきさ、  リョータが寝てて怒られたろ?  夢でも同じの見たんだよね」 「デジャヴってやつ?」 「じゃなくって。  それって結局は、  “見たことあるような〜”ってレベルでしょ?  明け方にそんな夢見て、  リョーちゃんアホだなーって思いながら、  目え覚めたんだって。  はっきりと。  んでリョーちゃんに言おうかと思ってたら、  本当にそうなるからさ。  なんかよく分かんないけど、  変じゃね?」 「確かに…  正夢ってやつなのかな」 「教授に聞いてみてよ」 「暇が合えばね」 似たような話は数回聞いたが。 不思議なこともあるものだと。 特に気に留めはしなかった。 教授には一応話したが。 ナナセが本気でないからだろう。 教授も大したことは教えてくれなかった。 季節は巡り。 3年の夏。 大学受験の準備に。 みんなせかせかと動き出していた。 「ナナセは東大?京大?」 「いや、  そう簡単には行けないから」 「俺も近くにしようかな」 「同じところとは言わないんだ」 「無理げだし」 別に付き合っていたわけではない。 けど。 友というには特別だった。 当然のように。 この先も。 一緒にいるつもりだった。 「ナナセ」 ある昼休み。 弁当を食べながら。 なかなかカイチの箸が進まないことに。 気づいた頃。 「今日、  午後とかサボるなよ?」 「え、なんで?」 「いい加減受験生だし。  教授も期待してんだろ。  頑張れよ」 「別に、  期待なんかしてないし。  急に何言ってんの?」 そのままでいいって言ったのは。 カイチだろ。 「まあいいけど、  いろいろ、  気をつけろよ」 そのやりとりに。 なんとなくイライラして。 午後の選択科目で。 カイチと別々になった隙に。 旧校舎へ抜け出した。 隣に立つ旧校舎は。 もう何年も取り壊されないまま放置されてる。 どこも鍵がかかっているが。 外の非常階段から登って。 4階まで行くと。 いい風が吹き抜けるのだ。 階段に腰を下ろし。 目を閉じる。 髪がそよぐ。 このままでいいって。 言ったくせに。 ふてくされ。 うたた寝をしていた。 ナナセの耳に。 人の声と。 足音が響く。 ガバッと起き上がる。 先生だ。 渡り廊下を使って。 旧校舎の見回りにきていた。 教頭と生徒指導の先生に。 「こら!  何してる!」 見つかった。 まずい! 咄嗟に逃げようとして。 腕を。 捕まれそうになって。 身を。 引いた。 そのまま。 赤い手すりを。 身体が。 簡単に。 乗り越えて。 「あっ」 真っ逆さまに。 落ちていく。 「ナナセ!!!」 最後に。 カイチの声がした。
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