夢夜

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記憶が混乱していたカイチは。 落ち着いてくると同時にはっきりしてきた。 ナナセと。 予知夢についてだけ。 すっぽりと記憶が抜け落ちていた。 「思い出さなくていいよ。  その方がきっといい」 そのままカイチと会うことはなく。 月日の流れに身を任せて。 教授が手を回してくれて。 違法界析がばれることはなく。 ナナセは界析官になった。 カイチはそのまま予知夢を見ることもなく。 別々の人生を歩んだ。 「カイチ!」 ナナセが再び。 螺旋階段の夢を見るまでは。 『あの時の、  螺旋階段の夢を見るのか』 「そう。  それも私とカイチが逆転してる。  カイチが落ちてくるのを、  私は何度も見続ける」 教授に相談した。 教授はナナセが界析官になって数年。 落ち着いた頃に。 チューリッヒの研究所へ行き。 夢の研究をしていた。 『…カイチ君と、  会ってみたらどうだ?』 「え?」 『何か分かるかもしれない』 「向こうは覚えてないよ」 『それでも、  夢のことが分かるかも』 「会いたくない」 言った瞬間。 嘘だと分かった。 そのままでいいと言ってほしい。 笑いかけてほしい。 カイチの名前を聞いて。 張り詰めていたものが解けてしまった。 偶然を装って。 久しぶりにあったカイチは。 変わらず笑ってばかりで。 元気そうだった。 「今は便利屋をしているらしいよ。  生活は余裕なさそうだけど、  気楽にやってるみたい。  記憶界析とは縁のなさそうな生活だ」 『それはよかったな』 教授に言われて会ってみたが。 『ミサワ、  螺旋階段のほかに、  夢に変化はないか?』 「変化って」 予知夢を見ないかということか。 「何もないけど」 『そうか』 「また、  会ってみるよ」 『必要なら私が界析するから、  夢のデータを送りなさい』 「大丈夫。  自分でしてる」 教授は政府の夢界析の研究顧問もしている。 今は海外にいても。 いつ帰国して記憶界析を受けるか分からない。 『何かあればいつでも連絡しなさい。  力になるから』 「うん」 その日の夜だった。 誰かに監視されている夢を見たのは。
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